図書館総合展に行ってきた。〜図書館政策フォーラム「東日本大震災からの復興と震災への備えに向けて」第1部「東日本大震災、そのとき図書館は」
今年もやってきました図書館総合展。こういうのに参加してきたよ。
図書館政策フォーラム「東日本大震災からの復興と震災への備えに向けて」
各部2時間の三部構成。司会進行はすべてACADEMIC RESOURSE GUIDEの岡本真さん。
昨日の今日だというのに、このフォーラムは既に主催者の方がきちんとした記録を公開されている。お陰でxiao-2は安心して自分の印象に残ったところだけメモ。抜け漏れ・誤解はご容赦。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想および妄想。
- 司会による説明
- 最初に地震発生時の注意。南関東もいつ地震が来てもおかしくないと言われている地域。会場は震度6までは耐えられる。近くに横浜市の指定避難場所の公園もあり、比較的安全性の高い場所。パニックを起こさず、落ち着いて行動すること。頭上からの落下物にだけ注意。
- 本フォーラムの趣旨説明。夏以降、震災がテーマのシンポジウムや会議は色々開催されている。だがたいていの場合、その場での議論が深まらない。事例報告だけで終わってしまう。
- 本日お招きした被災地の図書館の方々は、このフォーラムがなければ復興のために駆け回っている多忙な方々。その中でここに来てもらっておきながら、何のお土産もなしに帰しては申し訳ない。ただ話を聞いて反省するだけでなく、何らかの形にしてほしい。
- 震災から半年が過ぎ、色々な支援がなされてきた。そろそろ支援のあり方を考える時期。えてして支援者の側からの報告会は大本営発表になりがち。うまくいかなかった事例も含めて検証する場としていきたい。
→三部すべての冒頭で、この注意と前説があった(ので、以下では省略する)。落下物の話の時は、思わず頭上を確認してしまった。あのライトが落ちてきたら死ぬな〜とか、天井のパネルは大丈夫か?と考えて、しばしゾッとする。
第一部ではこの後に神奈川県立図書館協会会長の林秀明さん、中国国家図書館の副館長さん*1によるご挨拶があった。が、これは割愛。
- 岩手県立図書館 菊池和人さん*2
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- 復興に向けた取り組み
- 県立図書館としてのスタンス。一つは被災した郷土資料の修復・救済。もう一つは図書館資料の収集・保存・活用。
- たとえば被災して身分証明書をなくした方には、簡易な手続きで県立図書館の利用者登録ができるよう特例を設けた。また借りた資料をなくしてしまった方のために弁償免除の規定も設けた。その他、避難所での読み聞かせなども行った。
- 県内市町村図書館への運営支援。4月〜8月にかけて54回訪問した。電話等での連絡はもっと。9月〜10月には、各図書館の状況にあわせて支援。システム化の支援や郷土資料に関する作業等。富士通やTRC等の企業にも協力してもらった。
- 郷土資料について。陸前高田市立図書館で、岩手県の指定文化財「吉田家文書*6」の解読作業が震災前から行われていた。が、資料が被災*7。県立図書館所蔵のマイクロフィルムを提供し、作業をサポートしている。
- その他、被災した資料の仕分け・修復作業。国会図書館や地元の図書館職員と協力しながら進めている。
- 県内市町村図書館への支援。BM*8関係が多い。また岩手県図書館協会の会費免除規定を設け、被災した自治体は会費を支払わなくてよいことにした。
- 関係機関・団体等との連携。公益社団法人シャンティ国際ボランティア会*9との連携。今回の震災で、非常に積極的に活動してくれた。
- 遠野文化研究センター*10は支援の拠点となってくれた*11。県立図書館とも連携。日本政策金融公庫*12からも支援の申し出。
- 震災関連資料の収集。震災の記録を県立図書館に集めたい。震災関連の記録集、写真集などの寄贈依頼をしている*13。
- 現在の県内の状況。内陸部では38施設が開館。沿岸部では壊滅状態が3施設、資料が被災し一部業務のみ開館が1施設、開館中(部分開館も含む)が14施設。
- 復興に向けた取り組み
- 宮城県図書館 熊谷慎一郎さん*14
- 宮城県内図書館の被災状況
- 宮城県では3月11日の本震だけでなく、4月7日に起きた余震も大きかった。津波の被害に遭った沿岸部だけが注目されがちだが、実は最も震度が大きかったのは内陸部。たとえば登米市*15とか。
- 宮城県図書館では、人的被害は幸いなかった。図書館資料はほとんど落下。いったん戻しかけていたのが、4月7日にまた落下。
- 県の図書館は高台に建っていたものが多く、津波浸水を免れたところも多い。むしろ地震の揺れによる建物被害の方が大きい。建物に被害があると、サービス再開が困難。現在は前と同様のサービスではないが、プレハブ等何らかの形で開館できつつある。ただ、それを「開館」「再開」と言っていいのかというためらいもある。
- 県内の図書館の被災状況を写真で紹介。また、3月14日頃に国道45号線を走った動画を紹介。
- 宮城県内図書館の被災状況
→実際に映像を見ないと分からないが、この動画はショックだった。どう見ても海にしか見えない場所を、「ここに南三陸町図書館があったんです」と説明される。次に被災前の図書館の写真が映される。古めかしいが立派な建物だ。動画に写っていた道路の一部らしいものを被災前の写真の中に見つけて、初めて両者が一致する。絶句。
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- 復興に向けた取り組み
- 宮城県図書館は5月13日に再開。この日からお客さんが入れるようになったということで、それまでは非来館でのサービスを行っていた。利用者はそれなりにいるが、やはり少ない。
- 書架にテープを張って、資料が飛び出さないためのワンクッションとしている。まったく落ちないと書架自体が損壊する恐れがあるので、バランスが難しい。
- 県内図書館への支援事業。間接支援と直接支援の2種。前者は情報収集・提供、後者は直接出向く。声を上げられない人のため。声を上げられるところには支援が行く。そうでない人のために出向いて情報を集める。
- 情報公開も大事。本日、司会が会場の耐震度について話していたが、そういう情報を出しておくことでパニックを防げる。ちなみに宮城県図書館は震度7まで大丈夫。
- 市町村図書館の情報を集約する。結局平時からの連携が大事。声を上げられないところの声を拾う。一方で、訪問先に安心感を与える目的もある。訪問先では図書館員も図書館の仕事でなく、別の業務をやらざるを得なくなっていたりする。見捨てられていない、と思ってもらうことが肝心。
- 復興に向けた取り組み
- 福島県立図書館 吉田和紀さん*16
- 福島県立図書館の被災状況
- 県立図書館としては、茨城県と並んで大きな被害を受けた。
- ただ、亡くなった方はいなかった。揺れの来た瞬間は職員の誘導で一時退避、そのあと外へ避難。全体の被災状況が見えない状況の中、ひとまず建物の構造に精通した職員が戻って貴重品や車のキー等をできるだけ回収し、利用者を帰らせた。
- 天井のパネルが崩落。スライドの写真は玄関だが、館内の天井も同じ構造なので同様の被害と思われる。今もまだ館内には入れない。
- 強化ガラスの壁が崩壊。すぐ近くに閲覧机があり、利用者もいたが奇跡的に無事だった。
- 天井には150個の空調ダクトがはめこまれていたが、うち60個が落下。1個の重さは5㎏、直撃したら助からないが、これも奇跡的に人に当たらなかった。
- 福島県立図書館の被災状況
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- 福島県内の被災状況。
- そもそも福島県は、会津地方・中通り・浜通りの三つに大きく分かれている。間には山脈があり、文化的にも地理的にも離れている。今回の震災では、会津は被害が大きくなかった。
- 直接的な被害は地震と津波。津波で建物が大きく被害を受けたところはあまり多くなかったが、資料の汚破損がひどかった。
- 他の被災県と違う点としては、やはり原発の影響。県内図書館の開館状況として、9月時点で59館中7館が休館。うち郡山市中央図書館*17は建物の被害が大きかったためだが、それ以外は原発の影響で休館。
- 避難命令が解除されても、戻ってきたのは900人くらい。福島大学のアンケートによれば住民の半数が戻りたくないと答えたとのこと。ふるさとが失われた。図書館員も図書館職員である前に自治体職員であり、避難先で図書館活動をすることはできない。
- 現在も福島県立図書館内には利用者が立ち入れない。職員はヘルメット着用で書架から本を出してくる、完全閉架式でやっている。
- 宮城県・岩手県との違いは、沿岸部の自治体にそもそも立ち入れず、そうしたところの状況が分からない点。県としても何をしてほしいか分からない。情報を集めに戻ることもできない。歯がゆい。
- 風評被害もあり、影響は全県的に及んでいる。たとえば会津若松は震災自体での被害はあまりなかったが、他の自治体からの避難者が流入して図書館の利用者が増加。学校でも同じで、山奥の小さな学校で生徒数がいきなり倍になったというケースも実際にある。
- 福島県内の被災状況。
→前の2県の方が「直接出向いて情報を得ること」の重要性を訴えていたのに対し、出向こうにもそもそも立ち入れないという状況のハードさ。
→内容と直接関係ないが、お三方とも話の冒頭で必ず支援への感謝を口にされていたのが印象に残った。先取りになるが第二部以降での数々の報告を聞いていると、支援といってもミスマッチでうまく機能しないものも多かったという。それでもきちんと「ありがとう」から話を始める律義さ、当然と言えば当然だが、これが東北人気質なのだろうか。
- パネル討論
- 岡本さん
- 菊池さん
- 岩手だと野田村が一時まったく報じられなかったが、「忘れられた村」としてブログかマスメディアかに取り上げられたことで注目されるようになった。地理的に見過ごされているというのはあまりない。
- ただ県内の市町村図書館でも、もともと図書館職員だった人がいない状況になっている。来ているのは教育委員会の人などで、手探りで仕事をしている状態。他の団体から支援が得られても、その支援の内容を理解することから始めなくてはいけない。
- 熊谷さん
- 吉田さん
- 岡本さん
- 菊池さん
- 吉田さん
- 防災訓練を年に1度くらいやるが、最近厳しくやるようになっている。震度3くらいでも「ガラスから離れてください、高書架から離れて下さい」と大声を出すのが習慣になっている。震度3くらいの揺れの時に大声を出すのは難しい。
- ただ震災の時には、図書館内のどこが安全なのか、図書館から出た後どうするのかの共通認識がなく、不安だった。
- 熊谷さん
- 岡本さん
- 専門職としての図書館員が、どう行動したのか。検証する必要がある。
- 別の話。声なき声をどうするか。声を上げている所には支援が届く。だが最初の段階では、各自治体の情報が入らない。もっとうまくやれたとか、うまくいかなかったとか、あるいはこうしてほしかったという要望などあれば話してほしい。
- 吉田さん
- 熊谷さん
- 菊池さん
- 岩手県ではもともと県立‐市町村立図書館の連携が協力ではなかった。むしろ今回で近くなった面もある。
- 電話で話を聞いても、支援すべき内容は分からない。特に何も言っていなかった図書館に実際行ってみると、寄贈図書2万冊が積まれていてそのまま、といったこともある。図書館にいる人も専門家ではないため、それをどう扱っていいか分からない。とにかく足を運ぶ。
- しかも複数回足を運ぶことが大事。最初口の重かったひとが、何度も通ううちに話し出して、協力してくれるようになる。
- 県内の研修会でも、有事に備えた図書館同士の協力協定を作るべきだという話が出ていた。
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- 会場より
- 菊池さん
- 吉田さん
- 安全性が確保できるまでは、開けない。少し経って落ち着いてくると、市民から「なぜ開館しないのか」とクレームがくる。施設が壊れている、資料が落ちているといってもなかなか納得してもらえない。それでも安全が確保できるまでは開けてはいけない。
- 熊谷さん
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- 司会による第一部のまとめ
- 1点目。見過ごされた被害。被害全体を見渡し、全県的に考える必要がある。全県的といったが、一方で県域にとらわれないことも重要。たとえば陸前高田市と気仙沼市はそれぞれ別の件だが、地理的には非常に近くにある。
- 2点目。平時からの対策。人の命だけでなく、自分の命も守れるように訓練。
- 3点目。声なき声への対応。足を運ぶことが重要。それも、何度でも。むしろ平時から足を運ぶような関係。
- 4点目。安全性と安心感のバランス。図書館が開館しつづけていることが住民に安心感を与えるというのは事実。だが安全性の確保をおろそかなまま、職員の命を賭けてまで開館する必要はない。たとえば宮崎県で口蹄疫が流行ったとき、県立図書館は閉鎖した。図書館の建物を開けなくてもできるサービスもあるはず。
- 5点目。県立図書館の意義。今回支援する立場になって、県立図書館の存在は非常にありがたかった。各自治体の情報集約をしてくれる。外から支援しようにも、現地に足場がないと入りにくい。県という形でなくてもいいのかもしれないが、複数の自治体を束ねる役割というのはやはり必要だと感じた。
- 司会による第一部のまとめ
…ふぅ、ようやく第一部。眠い。
*1:お名前不明…
*8:ブックモービル。自動車文庫。
*11:取り組みの一例。岩手発・被災地支援情報サイト:遠野文化研究センター・献本と支援金のお願い」
*13:HPを見るとこういう活動もされている。岩手県立図書館東日本大震災情報ポータル