日本図書館研究会特別研究例会「図書館の公契約基準の提起」に行ってきた。

 一週間も経ってからのメモ。こういうのに行ってきた。

日本図書館研究会特別研究例会
テーマ:図書館の公契約基準の提起―図書館員の専門性蓄積と雇用安定のために
発表者:松岡 要氏(日本図書館協会事務局長)

 客席は50程度、大体満席。50代くらいが多そう、男女比は半々くらい*1
 例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できて、かつ「一週間経っても」覚えていた範囲、のメモ。特にお話の後半は難しくてメモが追いつかず、誤解している可能性も大。松岡さんのお話の趣旨をちゃんと知りたい人は日本図書館協会のHPとか図書館雑誌とか読むといいんじゃないかな。…と逃げ口上を用意しつつ、以下。

  • 公契約基準について
    • 今回のテーマは、司書職制度をどうするかという問題にも関わってくる。1997年に「図書館界」でも書いたが、戦後司書職制度は進展していない*2
    • 公共サービスを市場にゆだねる動きは、1996年の構造改革が出発点。その後2001年の小泉内閣で一層進められた。
  • 図書館員雇用の現状
    • 配布資料に、各種図書館における正規雇用と非正規雇用の割合を示した*3。ここでの「正規雇用」は図書館の設立母体が任期の定めなく直接雇用していることと定義。後者はそれ以外の雇用、有期雇用を想定している。派遣の場合は、設立母体としての正規雇用ではない、という意味で非正規に分類。
    • 派遣で働く人の雇用条件は、一義的には雇用主(派遣元)の責任ではある。が、設立母体としても一定の責任を持つべきであろう。
    • ここ数年で図書館の数は増加し、あわせて非正規雇用で働く人の数も増加。全体の6割が非正規雇用、専門性の蓄積が懸念される。
    • 図書館における派遣職員の率は、特別区では7割近く。都道府県・市・政令市・町村等も含めた図書館全体では2割程度。特別区は行政職員が多く、財政規模も大きい。図書館の中でも特別区の図書館は特殊で、普通の市とは違うことが分かる。
    • 図書館に限らず自治体の現場で働く人のうち、非正規雇用は35%。中でも非正規の割合が高いのが学童保育、図書館、相談員等で、6割を超えている。ただし相談員というのは弁護士等の専門家が相談を受け付けるものであって、非正規となるのもうなずける話。図書館での非正規率の高さには、図書館とはその程度の存在であるという行政サイドの認識が見える。
  • 指定管理者制度導入の現状*4
    • 指定管理者制度を導入している図書館は7%程度、200館を超えている。体育館等、他の社会施設に比べるとやや低い割合。図書館と指定管理者制度のなじみにくさが現れている。
    • 指定管理者の種別に注目。文科省の調査はそれほど細かい種別を出していないが、生データを見る機会があったので配布資料に示した。図書館の指定管理者は、株式会社が半分以上。
    • 公的施設全体では、株式会社が指定管理者となっているものは14.8%にすぎず、公共的団体が指定管理を行っているケースが一番多い(42.6%)。官から民への移行ではなく、官から官への移行となっている実態。自治体はしたたかで、元々公的施設の管理を請け負っていた既存の財団等が公共的団体として指定管理を行い、実質はそのまま、というケースも多い。
    • 図書館で財団法人等が指定管理者となっているケースは、他の施設に比べて低い。ただし調査の回答をよく見ると「公共的団体」に分類すべきようなものが財団法人に含まれているケースもあり、多少混乱が見られる。とはいえ、官から民への移行が図書館においてもっとも進んでいると言える。
    • また、指定管理者で「その他」に分類されているのは、民間が加わった共同企業体等。「その他」36のうち、27がこうした共同企業体。全体として企業の関与は相当なもの。
    • 民間企業とは、TRC、ヴィアックス、丸善。その他としてはビルメンテナンスの会社、人材派遣会社等。
    • 2005年から指定管理者制度を導入してきたところでは、そろそろ指定管理の1クールが終了するタイミング。指定管理者が交代したところでは、4年間頑張ってきた館長が契約終了で辞めることになるといったケースもある。
    • TRCのシェアが高い。従業員が3,000人おり、全国的規模で責任者を異動させることで活性化を図るといった戦略をとっている。スケールメリットが生かされている。
    • 指定管理者から直営に戻されたケースは、島根県安来市立図書館、出雲市立大社図書館、福岡県の小郡市立図書館。
  • 公契約とは?
    • 民―民の契約ならば、安いものがよいということで競争入札が原則。
    • 公―民の契約の場合はどうか。地方自治法第一編総則第2条14項「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。 」とある*5。この「最少の経費で」という部分には疑問を呈する説もある。公契約によって働く人も住民であるという点を鑑みれば、安ければいい、競争入札だけでいいという話にはならない。
    • ILO(国際労働機関)は、1949年に「公契約における労働状況に関する勧告」を出している*6。しかし日本は批准していない。この内容は、公契約で結んだ労働者の労働条件は、その地域で似た業務をやっている人の水準に合わせないといけないというもの。
  • 公契約条例と公共サービス基本法
    • 自治体で公契約条例を作ろうという動きがあり、700以上の自治体から国に意見書を提出している。ここで想定されているのは、主に工事契約。建設労働者の労働条件。
    • 公共サービス基本法*7。野党の頃の民主党が作ったもの。役務の委託を受ける企業だけでなく、委託する公的機関の側も、労働条件に配慮すべきという法律。ただしこれは法律成立後、総務省から通知が出ただけ。細則や施行規則等は整備されていない。
    • 公契約条例。尼崎市で設置の動きがあり、議会に提出されたが、合意に達せず。2009年に野田市で成立*8。適用は庁舎管理等に限定されており、指定管理者の場合はこれから努力していくということ。
    • なぜ異なるかというと、公契約は民法に規定する契約。指定管理は契約ではなく行政処分の扱いである*9ため、公契約条例になじまないという考え方がある。
  • 日本図書館協会による公契約基準
    • こうした状況を受け、日本図書館協会(以下、日図協)も団体として動くべきと考える。日図協はすでに図書館に指定管理はなじまないという考え方を表明している*10。だが、いったん指定管理者制度を導入することを選択した以上は、住民の福祉増進という目的のため、適切な方法で運用できるように動くべき。
    • 名古屋市のある指定管理者側の責任者から、「委託料の積算基礎を日図協で出してほしい」と言われた。日図協としても調査すべくいくつかの企業に聞いてみているが、回答がない状況。
  • 試案の内容解説
    • 公契約基準の試案を作成した*11
    • 「2 定義」(1)公契約:指定管理者制度は契約ではないということで、「指定管理者との業務内容等の協定も含む」と補記してある。通常、業務水準書といった名称。
    • 「3 自治体の責務」(1):自治体の図書館計画の立案・公開を挙げている。図書館計画には長期的な見通しが必要だが、作られていない場合が多い。新しく設置する時の計画はあるが、それだけでなく管理運営の基本になるものが必要。
    • 上記の検討に当たっては、図書館利用者・有識者を交えた組織が必要。
    • 2010年に、総務省から各地方自治体に向けて指定管理者制度の運用に関する通知が出た*12*13。サービス水準を維持する上で必要な人的・物的能力のあるサービス提供者を選ぶということで、単なる価格競争ではない旨が記されている。制度導入は引き続き進めるが、少し方向修正の趣。
    • 「3 自治体の責務」(3):図書館で雇用していた人の継続雇用。野田市*14、文京区では要求水準書に入れた。
    • 「3 自治体の責務」(5):委託料の積算。熊本市*15板橋区で実例がある。事実上公契約条例の実施に至る。
  • モデル賃金の積算
    • 建設関係の案件については、国土交通省で積算の基準を設けている*16
    • 司書の業務を行うために、最低いくら要るか?のモデルを提起できるとよい。もちろん地域によって大きな差があるが。
    • 一般的に非常勤職員の報酬というのがどの程度か調べてみた。おおむね一般事務職と同じ、別に高くない。自治体によっては、非常勤職員に係長級までの昇格を認めているところもある。
    • 非常勤職員一般と、図書館類似業務ということでたとえば教育に携わる職員の時給を調査するとよいかもしれない。が、これは今後の課題。試案の本文は一般論。
    • 労働関係の人からは注目されているが、図書館系の人はあまり関心がないようだ。
    • 話の最初で派遣が増えているといったが、実際には派遣だけでなく、直接雇用の非常勤職員が多い。
  • 専門職制度
    • 人員削減で専門職ほどアウトソーシングが進み、役所にいるのは行政プロパーの人ばかりという現状がある。
    • 学校司書の配置が進んで、現在配置率は4割程度。しかし実際は事務職員の仕事をさせられているケースもある。司書資格を持っている職員が何割いるか。どのような中身の業務を学校司書に期待しているか。
    • 昭和20年代には司書にも職級明細書というものがあり、司書の職種でも6級に分けられていた。何級の人はこういう職務につくと定められていた。
    • 職階制について。「国家公務員の職階制に関する法律」があった*17が、少し前になくなって*18成績による人事評価制度になった。
    • 地方の場合は、地方公務員法第23条の4に定められている*19。また同法第17条では「職員の職に欠員を生じた場合においては…」とあり、この場合の職は職種のこと。
    • 経歴管理システムについて。1984年に自治省が人材育成基本方針を定め、1986年にマニュアルを作成。
    • 司書やケースワーカー等、職名で設置された場合には、本人の同意がない限り異動させられない仕組みがあるところもある。
  • 有期雇用について
    • 非常勤職員は単年度契約だが、毎年更新して10年以上繰り返し、常勤職員よりもベテランになっているというケースがある。
    • 任期付短期間雇用制度。正規として働けるように、任期を緩和すべき。これは地方自治法に触れるので、国への働きかけが必要。
    • 荒川区では、係長まで昇格できる非常勤制度がある。

 このあと質疑応答もあったが、メモがすかすかなので省略。

 感想。
 委託料の積算基準を提示するのかすごい、と思って聞きに行ったのだが、まだ具体的な話ではないようだ。業界団体が数字を示すことは毒にも薬にもなるから慎重になるのは無理もない。今後に期待。
 また、聞きに来ていた大学図書館の知人がいた。大学図書館の方が非正規化は進んでいるのだが、公契約という枠組みだと大学図書館は当てはまらないね、という感想だった。確かに。公契約の考え方を自分は「コミュニティの福祉増進に貢献+契約で働く人自身もコミュニティの一員=まっとうな労働条件の維持がコミュニティの福祉増進に貢献」と理解したのだが、大学だと当てはめにくいか。

 契約の基準として使うなら、司書の仕事をするのにいくら要るかの内訳と根拠がはっきり見える形が必要だな。そうすれば外部向けの説明にも使えるし、どの種類の図書館でも応用可能なモデルになるはず。公共図書館モデルの基本料金はこれだけですが、大学図書館の場合はこれに情報リテラシー教育の項目を追加して、児童サービスの項目を減らすので差し引きいくらになります、てな感じだろうか。

*1:いつも思うのだけど、図書館関係の研究会はテーマによって年齢層がだいぶ違う。Web寄りのテーマは年配の人が少なく、経営とか調達寄りのテーマは若手があんまり見えない。当たり前と言えばそうだけど。

*2:松岡要. 公共図書館の職員の現状,職種,「必置規制」. 図書館界. 1997, vol. 49, no. 3, p.160-168.

*3:このあたりの数値は、『日本の図書館』、平成21年度「学術情報基盤実態調査」等に基づく模様。

*4:このあたりの数値はこちらに基づく?:文部科学省平成21年度図書館・博物館等への指定管理者制度導入に関する調査研究報告書

*5:地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)

*6:国際労働機関|1949年の労働条項(公契約)条約(第94号)

*7:公共サービス基本法(平成二十一年五月二十日法律第四十号)

*8:野田市公契約条例 平成21年09月30日 条例第25号

*9:Wikipedia「指定管理者制度」の項(2011/06/04確認)

*10:2010年3月「公立図書館の指定管理者制度について」

*11:2010年9月「図書館事業の公契約基準について(PDFファイル)」

*12:平成22年12月28日「指定管理者制度の運用について」の発出

*13:通知文書全文(PDF)

*14:野田市公契約条例第16条3「受注者等は、適用労働者の雇用の安定並びに公契約に係る業務の質及び継続性の確保を図るため、公契約の締結前に当該公契約に係る業務に従事していた適用労働者を雇用し、及び前項の措置に係る適用労働者を継続して雇用するよう努めなければならない。」

*15:指定管理に係る管理運営経費の「積算総額」の算定 (平成 18 年度改訂版)(PDF)

*16:たとえばこのへん?国土交通省「設計・積算基準関係」

*17:「国家公務員の職階制に関する法律」(昭和二十五年五月十五日法律第百八十号)

*18:法律が廃止になったという意味か、運用されなくなったという意味か分からなかった。

*19:地方公務員法(昭和二十五年十二月十三日法律第二百六十一号)