図書館総合展に行ってきた。〜L-1GP篇

 先週は横浜の図書館総合展に行ってきた。中でも一番楽しみにしていたのがL-1グランプリ

20代から30代のライブラリアンを中心に、ワークショップ形式で、それぞれの抱く図書館像を検討・発表していただきます。この経験を通して、今後、図書館業界で活動していく上で欠かせないリーダーシップやファシリテーションアジェンダ設定やビジョン提示、パブリックスピーキングの能力と経験を養うことを目指します。
賞金総額は100万円!
あなたが理想とする図書館像を描き出して、賞金を獲得してください!
出場チーム7組:

  • 石けんブラザーズ
  • Actualize L-1 Team
  • Lie(Linrary and Information Engineering)
  • KIBIDAN5
  • 酔いどれ西遊記
  • Liforms
  • りぶやん

 今回Twitterで実況もあったみたいだし*1Ustreamもあるようだし、きちんと記録取ってた方もいるようだし*2、起こったことのメモはもういいだろう。ということで、いち観客として感じた個人的な印象をメモしてみる。

 まずは第一部。

  • 入場、お題発表

 会場はけっこうな賑わい。席は150程度?ほぼ埋まっていたか。年齢層は全体に若めで20〜30代がメイン。学生さんも多そうだった。
 開会挨拶、司会の説明の後、各チームがゼッケン姿で登場。司会のプロっぽくこなれたしゃべりと、音楽などはなく拍手のみのBGMで意気揚々と入場する姿のギャップがちょっと微笑ましい。5名×7チームで35名だから、客席だけでなく出場者席も満員御礼。
 発表されたお題は「あなたは抜擢人事で図書館長に就任することになりました。明日は就任初日です。関係者に対して、ビジョンとプランを示してください。」最初は自分たちのチームで相談するのではなく、観客や他のチームの人にインタビューして、それからチーム内で討議して、3分間のプレゼンをする、という内容。

  • インタビュータイム

 開始の銅鑼が鳴り*3、各チームの人が観客席になだれ込んで色々尋ねて回る。結構知人同士が多いのか、フランクに話しかけている。インタビューの仕方にも個性が出ていて面白い。詳しくモデルを仮定して質問する人、日頃業務の中で感じることを尋ねる人、どうしたらいいと思う?とストレートに訊く人。答える側としては漠然と聞かれても漠然としか答えられないので、どんどん突っ込んで質問してくれるタイプがありがたかった。観客といえども油断はできない、一生懸命考える。
 インタビュータイムの後チーム内討議。ここは観客は見るだけ。こちらもインタビューで頭が活性化して色々考えているので、出場者席の議論が盛り上がっている様子を目にしてわくわくする。Ustreamの時間つぶしか、会場後方で観客にインタビューをしている。観客遣いの荒い企画だ。

  • プレゼンタイム

 プレゼンターは自ら館長になりきったり、そうでなかったりしつつ3分間プレゼン。面白すぎて手が止まってたのでメモは超要約版。→以下はxiao-2の感想。

    • 石けんブラザーズ:図書館を編集する。コンテンツ、人、環境のそれぞれを編集する。

→「図書館を編集する」というキャッチフレーズ、話の内容も非常に整理されて分かりやすかった。どこかで使えそう。

    • Actualize L-1 Team:すでに出来ているのではなく、これから図書館を作る。準備室長。図書館といえば人・資料・建物、それに+α。+αとして、たとえばゲームのできる図書館、図書館スタッフの貸出、利用者カードに利用者のプロフィールを書くなど。

→こちらは非常に具体的な方法。スタッフの貸出という発想が面白い。

    • Lie(Linrary and Information Engineering):エンジニアのための図書館。図書館員もエンジニア。あなたたちの考えていることを実現するために、実証的データで説得できれば、必要な金は館長がとってくる。

→エンジニアの人の理想郷なんだろうなぁ、と思う。残念ながら自分はエンジニア的な人ではないので、ふうんなるほど、という感じ。こちらも話のまとめ方が非常にコンパクトで分かりやすい。プレゼン慣れしてるのか。

    • KIBIDAN5:ふるさと、郷土愛がテーマ。ローカル性。具体的には岡山について。岡山の良さを発信していく。

→地元愛が堂々と前面に出ているのはそれだけで微笑ましい。予算の話とかもしていたのだが、聞き逃した。

    • 酔いどれ西遊記:地方公共図書館で抜擢されたという設定。抜擢ということは任期がある。任期3年とする。PDCAサイクルを作り、私(館長)がいなくなっても回っていく仕組みが必要。そのために地域の人とつながっていく。地域の運動会や飲み会に出る。また抜擢ということは館内でも上と下がつながってない。つなげたい。図書館に来ない地域の人とどうつながるか。ラストワンマイル。

→「抜擢」から「任期がある/館内で孤立」という設定を導き出す力がすごい。ラストワンマイル、は意味がよく分からなかった。何かの用語かな。

    • Liforms:組織内プロデュース。皆さんの働きやすい場を作るのが私(館長)の仕事。館長は外交官。

→館長なりきり型のスピーチ。そんなに突飛なことを言っているわけではないのだが、穏やかで諄々とした語り口がいかにも信頼できる館長といった感じで好感度高し。短時間のプレゼンだとかなりエモーショナルな面に左右されるので、プレゼンターのキャラクターも大事だな。

    • りぶやん:中小規模の大学図書館という設定。抜擢なので中のことはよく知っている。館長はスポークスマン。関係者とつながっていく。ホスピタリティと予算。

大学図書館を明確に設定したのはここだけか。抜擢なのでよく知っているという解釈が、酔いどれ西遊記チームと真逆で面白い。
 3分ごとに怒涛のトークを聞いたところで、第一部終了。観客は一番気に入ったプレゼンに投票して、会場を出る。

 第二部は非公開。Twitterで意見を募ったり公開ブレストしていたチームもあったらしいが、自分は見ていない。

 午後、お待ちかねの第三部。

  • プレゼンタイム

 第一部のプレゼンや第二部の討議を踏まえて、持ち時間8分でプレゼンする形式。プレゼンに先立ち審査員が紹介される。予想以上に大物が来られていた。前には賞金20万円を示すボード。これで賞金の行方が決まる。
 観客まで一気に緊張が高まる中、各チームのプレゼンが始まる。内容は第一部でのプレゼンの発展形。これも聞き惚れてメモがおっつかなかったので、内容は省略。
 聞いているうちに気付いたことがある。それは、観客である自分の視点が第一部の時とは異なっているということ。第一部の時には図書館スタッフ、もしくは図書館利用者の視点。インタビューに加わったりするので自分も参加しているという感じがあり、出場者と一緒に作る楽しいゲームのようなほのぼのした気分があった。
 だが実際に審査員が並び、この結果で具体的に20万円が動くという場面になると、変わる。「このアイディアに20万円払えるか」という視点、つまり設置者というかスポンサーの視点で見るようになる。本物のカネを賭けるということの威力を実感した。お金を賭けたことで遊びではなくなっている。大金だが個人でも払えなくはない、リアリティのある金額であることもミソ。
 プレゼンはそれぞれ面白いし、魅力的だし、頭いいなあと思った。だがいったんスポンサー視点になって、自分の通帳から20万円おろしてきて払ってもいいかどうかを本気で考えながら見ると、何か物足りない。具体的には何をどうするのいくらかかるの、自分や社会にどう得があるの?という冷めた問いかけが入りこむ。午前中には同じ内容で素直に感動したのに。
 まして審査員はバリバリのビジネスの世界で生きている方々。どんなふうに見えているのだろうと思うと、無駄にやきもきする。

  • 審査員による講評
    • 伊勢真一さん(映画監督):図書館というのはただの建物か、組織か。「個」「私」のリアリティが感じられない。どう変わっていきたいと思うのか。
    • くすのきしげのりさん(作家):公共図書館の管理職を務めたことがある。抜擢人事されるということは、問題を把握し、自分に何が期待されているかを理解できるリーダーであることが必要。大事なのは、利用者を想定しているか、夢があるか。
    • 小城武彦さん(丸善株式会社 取締役社長):館長はコンサルタントではない。先生ではない。評論家ではない。館長はリーダー。リーダーは自分の言葉で語り、当事者意識を持っていなくてはいけない。それがあるかどうかで評価した。
    • 橋本大也さん(IT起業家):抜擢ということは内外の抵抗勢力が多い。メディアやコミュニティを味方につける能力が必要。そのためには時代背景にマッチすることが必要になる。
    • こうつきやすのぶさん*4寶槻泰伸さん(株式会社ワイズポケット代表取締役社長)*5:ミッション・ヴィジョン・プランがしっかりしているか、共感できるか、という点から考えた。その点、Actualize L-1 Teamのアイディアは良かった。利用者のプロフィールをカードに明示するというのは、「利用者の貸出」ともいえる。

 なんと審査員にも時間制限があり、1分間話すと銅鑼が鳴る。そんな中でどの人も非常に鋭く分かりやすいコメントだったのは、さすが一流。プレゼンを見ながらもやもやしていた原因が、クリアに指摘された感じで納得する。

  • 筑波大学の宇陀則彦先生よりコメント
    • 割合素直なお題だったと思う。一つめのポイントは図書館からの逸脱、でも逸脱しすぎない。図書館の本質とは何か。
    • もう一つのポイントは、勝負事であるということ。プレゼンに工夫し、聞く人をその気にさせることが必要。
    • (…で、あとは全チームを一刀両断。容赦ない)

 優勝は石けんブラザーズ。おめでとうございます。


 終わってみての感想。
 ひとことで言って、非常に悔しかった。これは不思議な話で、自分は特定のチームや人に肩入れしていたわけではないから勝ち負けはどうでもいいはず。では何が悔しかったか、後からじっくり考えた。
 出場していた人たちは自分から見れば錚々たるメンバーで、アイディアもプレゼン能力も比べ物にならない。制限時間内にあれだけアイディアをまとめて人前で話せたというだけでも、すごいと尊敬する。自分にはそんな芸当できない。お金がかかってなければ、和やかに褒めたたえて終わったと思う。
 が、そのくらいすごい人々をもってしても、図書館という限られた世界を超えてビジネスの世界に立ち向かう、つまり誰かに20万払わせるにはまだまだなのだと思わされた。審査員がそう評価したからというだけではない。実際自分が図書館スタッフの視点で聞いたとき素敵に思えたアイディアが、スポンサーの視点になったときには物足りなかったという事実がショックだ。自分の中の「図書館」が自分の中の「スポンサー」を説得できなかった、そういう敗北感でいっぱい。
 出場した人は本当に頑張ってたし、悔しかっただろう。しかしあの舞台は出場者だけでなく、観客まで巻き込んでそういう思いをさせるために作られた仕掛けなのではないかと思う。アイディアを出せ、スポンサー視点で見てみろ、もっと悔しがれ、考えろ、と。ま、そんなメッセージを受け取ったのは自分だけかも知れないけれど。

 あと企画についての感想。お金賭けて真剣勝負するのだったら、お題をその場で示すのではなく、事前に示して練ってきてもらう形式の方が良かったかも、と思う。「即興で考えをまとめてプレゼンする」のと、「売り物になるプレゼンをする」のどちらがメインなのか、観客としても迷ってしまう。両方が課題だとしたらいくらなんでも難しすぎないか。プレゼンのうまい下手なんて練習量だからなぁ。


 とりあえず、誰かに20万円払ってもらえる図書館になるにはどうすればいいか。明日からそれを考えながら生きていこうと観客(のひとりであるxiao-2)に思わせただけでも、充分にすごい企画だったと思う。運営した方、出場した方、ありがとうございました。

*1:Togetterまとめ

*2:こちらが詳しいです。L-1グランプリ 第1部・第3部の記録 - 図書館学の門をたたく**えるえす。

*3:比喩じゃなく、本当に銅鑼使ってた。横浜といえば中華街だから?

*4:名前聞き漏らして、この人だけどなたか分かりません。誰か教えて。

*5:12/2コメントにより追記。