「お客さんの笑顔のために」の落とし穴。
お客さんに喜んでもらうために仕事をする、というタイプの人がいる。自分もその傾向がある。基本的に、正しい姿勢だと思う。人間には他人を喜ばせたいという本能がある。ありがとう!と言われて嬉しくない人は少ない。嬉しくないならサービス業は向いてないだろう。
しかしお客さんが喜んでくれた=良いサービスしている、という具合に、それだけを金科玉条にして安心してしまうのはあんまりいいことじゃないのかも知れないなぁ、と最近思った。
- もともとどの程度期待されていたのか。
笑顔は、期待と実際のギャップだ。このくらいのサービスを受けられるだろう、という期待を良い方に裏切られると、当然お客さんは感激するし喜ぶ。だがそれは、もともと期待されていなかったということの裏返しであることもある。
たとえばレファレンス。「図書館でほしい本のことを聞いてみたら、司書さんがいろいろ調べてくれてね、親切で感激した」という反応を聞く。一見いいことのようだ。だが、その人は「司書さんが色々調べてくれた」ことを当然受けられるサービスだとは知らず、個人的な親切だと思っているからこんなに感激しているのかも知れない。
「コンビニでお弁当買ったら、わざわざ『温めますか』って聞いてくれた!」と感激する人はいない。コンビニではそういうサービスが受けられるものだと誰もが思っているから。当然必要だと期待されているサービスほど、分かりやすい笑顔や褒め言葉をもらえる機会は減る。残念ながら。
- どのくらいコストがかかって、効果はそれに見合っているか。
企業の場合、売上は上がっているのに利益が下がっているという状況がある。目先の売り上げを伸ばすために値引きしすぎた結果、モノを作ったり売ったりするためのコストのほうが売上より高くなってしまうため*1。
図書館のサービスも、コストはもちろんかかる。コストは予算化できるものに限らない。必要なものを手作りするにも手間と暇はかかる。外注しないで職員が残業すれば人件費が膨らむ*2。
利益の出ない企業は潰れる。図書館は営利目的でやっているわけではないけれど、コストの見返りはコストより大きくなくてはいけない。でなければ、コストを負担する人が納得しない。負担するのは、公共図書館なら税金を払う人、大学図書館なら学費を払う人だ。納得されなければどんなにきめ細かいサービスをしていても、そんな贅沢なサービスにかける金がもったいないと言われるのが落ち。
- 来ない人、利用しない人のことを考えているか。
目の前のお客さんを喜ばせることだけ考えていると、目の前にいないそれ以外の人のことを忘れてしまいがち。遠隔サービスを使う人、よその図書館を通じて利用する人、人に頼んで借りに来る人。来ない人はなぜ来ないのか、どうしたら来るようになるか、あるいは来なくても利用できるようにできないか。
さらに、そもそも図書館を利用する気のない人もいる。会員制ライブラリーならいざ知らず、たいていの図書館は利用する気のない人にもコストを負担してもらっている。そういう人に「私は今のところ図書館使わないけど、あった方がいい」と思ってもらえるか。
うだうだ考えてみて、とりあえず結論。
「お客さんの笑顔がご褒美」が通用するのは、図書館の中の人まで。図書館にかかるコストを負担するすべての人に納得してもらうには、それ以上の説明が必要。自戒せねば。
そんなことを考えるきっかけになったのは、この漫画だったりする。
「どこまで譲るか―それはどんな店にしたいかで決まるのよ!!それがスタイル!!判断に迷ってしまうのはあなたたちにビジョンがないからよ!!」(第18話「無償の奉仕」)
- 作者: 佐々木倫子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/03/13
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