大図研京都ワンディセミナー「サービス向上・業務効率化に使えるアプリを企画し試行提供する」

 こういうのに行ってきた。
 講師は前田朗さん(東京大学社会科学研究所図書チーム)。東京大学で開かれている「図書系職員のためのアプリケーション開発講習会*1」の取り組みについて。
 以下メモ。あ、いつもながらこのメモはxiao-2の理解できた範囲だけ。聞き漏らし・誤解もあり、特に技術的な話は相当スルーしていると思われる。資料はそのうちWeb公開されるようなので、ちゃんと知りたい人はそちらを熟読した方が128倍ほどためになると思う…と、逃げ口上を用意して。

  • アプリ講習会のコンセプト
    • Web活用が進む一方、日常的な業務効率化が求められる現在の状況。その中で、一人一人の職員は何ができるか?と考えて始めた。
    • 個人で企画を考え、実現することが目的。通常は、問題解決型研修→自分で企画をまとめる→組織としてオーソライズし予算獲得する、というプロセスをたどる。しかしオーソライズ以下の部分はハードルが高い。アプリ講習会では、自分で企画を立て、コストがかからない範囲で非公式にとりあえずやってみることをコンセプトにした。
    • 「個人のスキル向上→業務効率化ツール作成→業務に余裕」、また「スキル向上→サービスツール作成→業務に余裕」という2種類の好循環が生まれ、最終的にユーザにとって利便性が高まる。
  • アプリ講習会の内容
    • 東京大学情報基盤センターが主催。東京大学の図書系職員のための講習会。
    • 内容はよもやま話、受講生自身の企画、基礎訓練など。受講生の関心に応じて適宜割合を変える。
    • 参加するとできること。情報基盤センターの人や前田さんに個別相談ができること。アプリ講習会専用サーバを使い、自分の企画したアプリを公開できること。
    • できないこと。既存システムに手を加えること。業務システムとの接続(情報基盤センターの許可が必要)。その他お金がかかること。なぜできないかと言えば、講習会はオーソライズされたものではないから。
    • スケジュール。東大の人事異動に合わせ、7月に募集。9月に受講生が自分の企画を宣言。2月に成果発表会。
    • 受講生のフォローはwikiページなどで行う。前田さんが問題を作って出したりする。たとえばプログラムの教科書では、正しい記述方法は載っているが「こうやるとエラーになる」という例などは少ない。
    • 効果。企画立案能力、ITに関する知識、開発力が身に付くという受講生のレベルアップ。またサービス用ツールや業務効率化ツールの開発による図書館の活性化。
    • 海外の図書館ツールと比較。CPANPerl言語のアーカイブサイト)に図書館関係のモジュールもある。これを基礎として使うこともできる*2
    • 成果物に対する評価。図書館間返送管理システム「楽返君」が2009年度東京大学業務改善総長賞を受賞。その他にも賞とったアプリがいくつかある。
    • レベルアップの方法として講習会方式が効果的かどうかは、本当はよく分からない。他にいい方法があるかも。基本的知識がない場合のレセプターをどうするか、モチベーションをどう維持するか。個人差が大きい。参加者には、後にシステム系で活躍した人もいる。
  • アプリ講習会に関する裏話
    • 図書館員とITの関わりに不満があった。たとえばITに関する知識や能力がないために外注し、外注の予算がないためにやりたいことを諦めなくてはいけない。あるいはGoogle等外部の動向に振り回される。
    • アプリ作成の分野で、図書館員も活躍できるということを若手に見せたいと思い「言選Web」「東京大学経済学部Engel」などに携わった。情報基盤センターでなく、図書館員が自らプログラミングすることに意義。
    • でもそのままだと他の人が続いてくれない。SEには35歳定年説もあるし、自分ばかりがやっているのではなく、経験知を若手に伝えなくては!
    • ということでアプリ講習会を立ち上げ。「言選Web」プロジェクトチームの人、情報基盤センターの人に協力を得て実現。ただし図書館としての正規の研修メニューには載せられなかった。
    • これまでの参加者と、それぞれの作成した諸々のアプリの紹介*3
    • 講師は受講生に対し、進捗管理や質問回答などきめ細かいフォロー。事務局は専用サーバの管理、場所の確保など。「がんばれば成果を出せる」環境づくり。
    • モチベーション維持の問題。LIPERの調査によれば、若手職員の9.43%がプログラミング能力の必要性を認めていた。また総長賞を受賞した場合、副賞として海外研修に行かせてもらえる。それがインセンティブになれば。
    • ローコストで改良。万人向けのパッケージでなく、カスタマイズ。外付けアプリなので手軽に作れる一方、根本的な改造はできない。
    • 教育論から見たキーワード。「計画された偶然」。熟達するには500時間が必要。随伴性(自分で環境や成果をコントロールできる)、ディープスマート(経験に土台を置く専門知)
  • デモ:これは到底メモできず。こちらを参照のこと。


 この後、質疑応答。こういう研修会の類ではちょっと珍しいくらい矢継ぎ早に質問が出た。熱さを実感。

  • 作成したプログラムの公開にあたり、セキュリティはどう担保?
    • アプリ以外の部分については情報基盤センターでチェックしている。アプリのセキュリティチェックは前田さんが実施。なるべく学内限定にとどめるなど、リスクが小さくなるようにしている。
  • 学内への広報、学内ユーザの声のフィードバックはどのようにしている?
    • 使えそうなアプリがあれば、情報基盤センターからMLで広報している。それ以外は口コミ程度。ユーザの要望も同じく個人レベルで聞いている。
  • 自分の所属機関はIT系の知識に疎い。また、大学としてアプリを公開する場合にはクレーム等のリスクもある。そういう難しさのある中で、アプリ講習会を立ち上げることができたキモは?
    • 前田さんからお願いして、情報基盤センターが応じてくれたので実現できた。クレームは常に気にしている。そういう点への配慮から、作ったけれども公開できないツールもある。
  • アプリ講習会用のサーバの環境やスペックは?
    • 当初は不要なサーバを転用しようと言っていたが、情報基盤センターで予算がついたので使わせてもらえることになった。ハードウェア等の管理はセンターに任せているのですぐには分からない。ソフトウェアは基本的にLinux、あとはフリーウェア中心に必要なものを入れている。
  • 成果物の中の「配架場所MAP表示」というツールに興味がある。自分の所属機関でも使ってみたいが、動作するためのソフトウェア等が必要か?
    • PerlCGIが動く環境ならOK。ただしMAPは自分で作らないといけない。
  • LibX*4のソースは公開されている?他の図書館でも簡単に書き換えて利用できる?
    • LibXはJavascriptOSS。改修は可能。東大版のソースも見ようと思えば見られる*5*6
  • 受講生は業務として講習に参加しているのか?募集の際は自主参加、もしくは業務命令?
    • 図書館として統一した判断はしていない。業務と考えるかどうかは部局ごとに判断している。現在は業務時間外にやっている。企業内研修などでも、業務と考えるかどうかは割れるようだ。募集は基本的に自らの意思で参加。
  • 情報基盤センター主催の講習会となっているが、図書館として主催することは不可能だったのか?
    • 図書館としての研修の枠組みはあるが、時間的にこの講習の内容は無理と思われた。
  • 講師である前田さんは、業務として携わっている?
    • 情報基盤センターから依頼を受けて、講師をやっているという形なので、業務時間にやることも可能。
  • 情報基盤センターと図書館の関係が密であることが鍵になっていると思うが、そのような関係を築けた理由は?また前田さんが異動された場合、次に講師をやれる人材は育っているか?
    • 情報基盤センター自体が図書系の職員であるため、親和性はある。ただし組織は別で、それぞれ独立しているが。次の講師をやれる人材については、まだ微妙かも。異動しても自分が関われる限りは関わりたい。
  • 本来なら図書館公式の研修としてやった方がいいと思うか?
    • 実施にはそれなりのリスクがあるため、正規の研修として実現するのは難しいと思う。環境さえ整えば、公式でなくてもよいと思っている。
  • 他機関、他地域の人間が、オンラインで参加することは可能?
    • アプリ講習会用サーバへの接続権限等の関係で難しい。個人的な相談であれば可能な範囲で応じる。
  • 利用者からの反応はある?また、トラブル時の対応はどのようにしている?
    • Firefoxのバージョンを上げたらLibXが動かなくなった、というクレームが来たことはある。逆に言えばトラブル時くらいしか直接反応を聞く機会がない。トラブル発生時は開発者の受講生に対応してもらうこともあれば、前田さんが対応することもある。
  • 講習生がつまずきやすいポイントと、それに対するフォローは?
    • 初心者が多いため、プログラムの組み合わせが分からない。バグ取りの途中で行き詰まる。どこでつまずいたかうまく言葉にできない…等のつまずきがある。質問にはすぐ対応するし、時には実際に講師が見に行くことも。
  • 参加者はプログラミングに関する基礎知識がなくてもよい?
    • やる気があればOKということで、ハードルは低くしている。逆に大学でプログラム言語を学んだことがあっても、実際の開発となるとできない人もいる。基本的に初心者がメイン。ステップアップのため、色々な教材を作っている。
  • これまでの経験を踏まえて、今後の展望と課題を。
    • 当面は講習会形式を続けていくと思う。(※もうちょっと答えがあったのだが、メモしそこねた)
  • プログラム言語として、初心者にはPerlがお勧めか?自分はPerlは動作環境が難しいのでJavascriptを奨めている。
    • 東大の環境で、情報基盤センターの意向に沿った結果Perlになった。特にこだわりはないし、使いやすいものでいいと思う。
  • 今後アプリ講習会として、公式の図書館システムにコミットしていく予定は?
    • 講習会としてではないが、ヘッドハンティングのような形で参加者がシステム検討のメンバーに選ばれることはある。人材育成の場になっているのだと思う。


 以下、個人的な感想。もう眠いからだらだら列挙。

  • 非常に面白かった。参加者も熱心に聞いていた。質疑では、技術系の質問と運営体制に関する質問の両方が上がっていた。両面から興味深いテーマだったのだな。
  • オーソライズしていない、ということを何度も言われていたのが印象的だった。「オーソライズ」が予算や人員の手当といったプラス要素でなく、自由度の高い活動の障壁となってしまっている現状を実感。
  • 熱心できめ細かい指導っぷりに感動。テキストも非常にシンプルかつ楽しげ。楽しげというのは大事な要素。
  • 決めごとはあえてざっくりのままにしておき、前田さんがフォローすることでスムーズに運営できている活動だと思う。だが逆に、そういう希有な人がいないと成り立たないモデルではある。どの程度システム化できるかが、応用する側の悩みどころだな。
  • 人材育成は業務か否か。結局時間外にやらざるを得ない現実。
  • 大事なのは「プログラミングを学ぶこと」ではなく、自分に必要なものを考えて作ってみること、その過程でプログラミングが必要になるから学ぶだけ。そこを忘れると手段が目的化する。自戒。

*1:長いので以下「アプリ講習会」と呼びます。勝手に略してごめんなさい>関係者の方。

*2:CPANについては、後でこのへんとかこのへんを参照した。

*3:メモしきれなかった…こちらを参照

*4:LiBXについてはこちらを参照

*5:見る方法を詳しく答えてくださったのだが、理解が追いつかなかった。

*6:2010/4/6 id:xiaodongさんが教えてくださったので追記「東大版LibXのソースの見方はダウンロードしたファイルの拡張子xpiをzipに変更して解凍すればみられるようです」感謝!