楽園への道

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

 久しぶりに分厚い小説を読んだ。歯応えはあったが夢中で読み切った。

 なかなか理解しにくい語りだ。わざと分かりにくくしている。違う時代に生きる二人の人物(フロリータ/コケ)の話が、一章ごとに交互に語られる。しかもその中に絶え間なく回想が入り交じる。二人それぞれの物語上の現在と過去、都合4本の時間軸が並行しつつ絡み合っている。この二人に一体どういう関係が?ということは、しばらく読み進むまで謎のまま放っておかれる。

 語り手の視点も謎。ことあるごとに「そうだったね、おまえ」と主人公に対して呼びかけている。かと思うと、彼・彼女と三人称呼ばわりしたり、主人公が知らないはずの事実を勝手にしゃべったり。その一方で、読者にとっては未知の人名やエピソードを説明もなしに匂わせてすましている。
 まるで主人公を近しく見守る友達のようでもあり、主人公の独り言のようでもあり、予言者のようでもある。呼びかける時の名前が微妙に使い分けられているのもポイント。

 だんだん読み進めるにつれて、諸々の謎が解けていく。実は主人公の一人はとある有名人だが、誰だか知らないで読み始めるとそれも謎の一つ。というか自分はよその書評ブログで紹介されていたのを見てこの本に興味を持ったのだが、紹介されていた内容をきれいさっぱり忘れていたおかげでいっそう謎解きが楽しめた。物語の最初で言及される「狂ったオランダ人」が誰だか分かった時はしびれた。

 話の中盤以降(というか全編そうだ)、疲労やら病気やら荒淫やら酒やらドラッグやらで主人公の意識はめちゃめちゃになっていく。過去も未来も他人も自分もいっしょくたの有様。時間軸と視点の錯綜した文体のお陰で、それがあたかも読んでいるこちらの意識のように思えてくる。「そうだったね、おまえ」…え?それ自分に言ってんのもしかして?という錯覚にとらわれる。

 というわけで、酒もドラッグも使わずにトリップできた。いやー読書って健全だなぁ。