図書館大会第7分科会「司書のキャリア形成を問う」

 一週間も経ってからメモを上げる仕事の遅い自分。例によって理解できた範囲のみメモ。誤解・言葉足らずが多々ありそうだが、xiao-2の脳内ではこういう話でした、ということで。

  • 司会による前置き
    • 専門職認定制度について、総会で委員会設置が提案されたが、保留票多数で可決できなかった。常務理事会では制度設置を進める方向。
  • 基調講演 糸賀先生(慶應義塾大学
    • 図書館に限らず、雇用の多様化が進んでいる。公務員についてもゼネラリストとしての能力が求められる一方で、スペシャリスト的な能力についてはアウトソーシングが進む傾向にある。そうした状況下において専門職制度を確立するには、図書館だけの基準ではなく、納税者など図書館外部が納得できるような制度であることが必要。
    • 国の施策としては1996年以降様々な提言がなされてきた。今年2月「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目のあり方について(報告)*1」が出され、司書資格を専門性獲得のための入り口と位置づけている。ではゴールはどこなのか?認定制度がゴールという訳でもない。
    • 欧米では司書教育の中心は大学院。現職者で特に意識の高い者が勉強するところ。一方、日本では大学の学部教育や短大で行われており、資格を取ろうとする人の動機付けが弱い。
    • 単に司書資格を持っているというだけの人は世の中にたくさんいるので、簡単に集めることができる。これは指定管理者制度の導入が進められてきた要因でもあり、これまでの司書認定システムのツケが出てきた形。
    • 経験もあり、研修等で自己研鑽も行っている司書を、ただ資格を持っているだけの司書とは違う専門職として位置づける必要がある。専門職認定制度はパフォーマンスにおける違いを示すための制度。
    • 専門職認定制度ができると指定管理者の導入が進むという批判がある。確かに専門職認定制度は正職員でも指定管理者でも受けてよいが、認定の基準はむしろ正職員に有利なはず。たとえば研修の受講回数を基準に入れているが、研修を受けやすいのは正職員の方ではないか。
    • 一番大事なのは図書館を使う人の意見で、質の高いサービスをどうやって実現するかという点。指定管理者を導入するとしても、きちんと能力のある人がトップに来た方が利用者のためには良いはず。
    • 一方で、勤務年数と業務の専門性との間には一定の相関関係があることが調査によって認められている*2
    • 今後のキャリアをどのように目指すか。すべての職員がキャリアアップを行い、最終的に館長を目指すべきだということではない。生涯一司書という人もいていい。ただ、両者の間には違いがあるべき。専門職認定制度をきっかけに個々の職員が自分のキャリアを考え、社会にも認知されていく必要がある。
    • キャリアとは「生涯にわたる、仕事上の経験や活動と結びついた態度・行動にたいして、個人的に知覚したものの連続体」(ダグラス・ホールによる定義)。自分や他人がどう認識するか。
    • キャリアには4つの意味がある。(1)上昇志向、(2)定型化した専門職(例:講師→准教授→教授)、(3)職位の連続、(4)諸経験の連続。(1)<(4)の順に広くなる。(1)(2)は客観的、(3)(4)は主観的。
    • 認定制度に関する議論の論点整理。必要派の論拠は「正規司書の他部署への異動抑止」「正規雇用化の促進」等。
    • 不要派の論拠は「提案されている制度では社会的評価は高まらない」←反論。社会的評価を高めるには、今図書館で働いている人が頑張るしかない。「指定管理者導入が促進される」←反論。この考え方は戦う前から負けていると思う。専門職としての質は指定管理者にかなわないという考え方だ。そもそも指定管理者は敵ではなく選択肢のひとつ。どちらがいいか、決めるのは納税者。
    • 看護師の認定制度導入を進めた加藤令子さんによると、制度導入時にはやはり現職の人に嫌がられたという。しかし一緒に知識の抽出をし、臨床の質を上げていかなくてはならない。それまでの現職者は自分のしていることを外部に分かるように表現する力が乏しかったのが、制度を導入することで変わっていった。
  • 松原さん(新潟市立西川図書館)
    • 自分は司書採用で、ずっと図書館勤務。ただしカウンター勤務経験は少ない。新館の立ち上げに関わり、計画書や設計書の作成などに携わってきた。
    • 図書館の評価を高めるため、専門職制度は早く導入した方がいい。時間が経つほど対象者は減っていく。
    • 自分も認定制度に申請をしたが、論文の実績がないため要件を満たさなかった。しかしアンケートでは、制度そのものには積極的な意見を書いた。決議で保留票が多かったとのことだが、なぜだろう。
    • 認定条件・身分について。地方公共団体職員に限る、とした条件には賛成。しかし現実にはそうでない図書館員も増えているし、そういう人の中に優秀な人も多い。また大学図書館学校図書館についてはどうするのか、という問題もある。だがまずは早期に制度を立ち上げることの方が重要。
    • 勤務10年以上という条件について。県立図書館や政令指定都市立図書館に該当する人がたくさんいるだろうが、そうでないところもある。中堅職員ステップアップ研修に倣い7年ではどうか。
    • 審査基準としては、中堅職員ステップアップ研修を受講した者ならOKだと思う。しかし東京もしくは大阪まで研修を受けに行くのは、地方在住者には負担。eラーニングの導入が望まれる。また、基準のハードルの高さには差がある。論文や学位取得はハードルが高い。社会活動等、市民に見える形のものを取り入れてはどうか。
    • 論文は特にハードルが高い。論文を執筆する機会も、意識することもこれまでなかった。とある図書館学の先生に相談したところ、「司書ならば、自ら問題を設定し調査するということは日常の業務でやっているはず(だから大丈夫)」と言われた。図書館以外の人にも見せるなど、審査はきちんとすべき。卒論のように、事前に点検してくれる制度がほしい。
    • 認定制度導入の効果について。導入しても受ける人が少なくてはいけない。保留票というのはマイナス。JLA自ら上級司書のPRをするなど、みんなが受けようという機運を作った方がいい。
  • 浴さん(東大和市教育委員会
    • 現在の所属は市の給食課。最初は一般事務職採用で18年間図書館に勤務。その後市民生活課で消費生活相談の事務方を経て、現在の部署へ。
    • 東大和市では、司書も一般事務職も同じ仕事をする。市の職員が図書館に配属されてくる度に、司書資格のある人間が仕事を教える。図書館について知識のない人も多く、外部に説明する前に、同僚や時には上司に対して図書館のことを理解してもらうためにエネルギーが必要。
    • ただ、皆きちんとした人なので、資格があってもなくても、時間をかけて真面目に取り組めばおおむね仕事ができるようになる。では、なぜ司書が必要なのか。
    • 自分は大学で図書館学を専攻した。当然図書館関係の科目が多く、実習もあった。同級生もモチベーションが高い。そういう人と、司書資格を持っているけれど図書館の仕事をしたことがない人、あるいは資格はないけれど真面目に仕事している人とで、何が違うのか?と悩む。
    • 自分の勤めていた図書館は研修にも積極的で、先輩が新人を育ててくれる環境もあった。「三多摩レファレンス探検隊」の取り組みを行ったりして自己研鑽もしてきた。が、それをキャリアと呼べるのだろうか。
    • 認定制度の課題。論文はハードルが高い。どのレベルのものを、どう審査されるのか。また、論文書いてたらそれでいいのか?という疑問もある。図書館員は技術職。技術の部分をどう判断するか。アウトソーシングするにも自分で知らないと管理できない。たとえば読み聞かせや、図書館の意義を外部に向かってアピールできる力、蔵書構築のスキルなど。
    • 現場の声を政策に反映しないといけない。
    • 自分は図書館を離れているので、制度ができても認定されるには間に合わないかも。図書館で働く人が仕事ができて、生活もきちんとできるような制度がほしい。
  • 田中さん(名古屋市名東図書館)
    • 名古屋市は司書職採用を行っており、司書として採用された者は他の部署への異動はない。図書館で働きたいという人が来る。
    • それで困っていることもある。何年か勤務すると管理職への昇任試験が行われるが、対象者が受験に積極的でない。受験を拒否する人までいる。人事の側から見れば「司書って何?(怒)」と思われるし、管理職の司書率が下がってきている。専門職採用の結果、より上級を目指そうという動機付けが弱まっている。
    • 自分は上級司書認定試験の予備審査を受けた。動機は、自分の力を全国レベルで試したいということと、自分の自治体の人に認定試験の存在を示したいということ。司書資格は永久資格ではない、と言いたい。
    • 「司書」という肩書きには、資格としての司書と、職階のヒラとしての司書が混在している*3
  • 質疑:司書のキャリアのあり方について
    • 司書である前に市役所職員、市役所職員である前に社会人。市民が求めるものを感じ取る力は行政の人の方が上だと感じる。司書もいったんそちらに行って、ただし戻ってこられるのが良い。(松原さん)
    • 現在公務員でも人事評価制度の導入が進んでいる。どの仕事でも自分のキャリアを考える必要がある。(浴さん)
    • 自分は司書は外の部署に出るべきではないと思う。ただし希望した場合には出て、かつ戻ってこられる制度はあってもよい。専門職集団への加盟が必要。司書の中にも「上を目指す」という姿勢の人がもっといてもいい。(田中さん)
    • 公務員としてのキャリアは、仕組みとしてある。それとは別に各職種にもキャリアがある。日本ではないが、アメリカには図書館内でのキャリアがある。司書としての定型化されたキャリアパスでもいい、職業人としてのキャリアパスでもいい。いずれにせよ考えるべき。雇用形態にかかわらず、キャリア形成していく必要がある。JLA認定制度はキャリア形成を考えるきっかけになり、またキャリア形成を外部に評価してもらえる形にする方法でもある。(糸賀先生)
  • 質疑:認定制度のメリット
    • 館長の立場から言うと、部下に目標設定する時には制度があるとよい。先輩が受ければ、後にも続く。(松原さん)
    • 資格を取ってスタート地点。認定制度ができるとその後のステップアップの指針になる。(浴さん)
    • 個人にとってのメリットもあるが、職場として、あるいは職能集団としてのメリットもある。職場としてはモチベーション向上につながるし、職能集団としては長い目で見ると全体の底上げになる。共通の基盤の中でキャリアアップの話ができることが必要。(糸賀先生)
  • 質疑:論文について
    • 論文についてハードルが高いという意見が多かったが、JLA側で想定している論文審査とは、ある程度論理的に論を組み立ててあればよいというレベル。本日の要綱と同じくらいでよい。日常業務の中でも、説明責任という面で「論文」的なものは必要なはず。ただし相応の訓練が必要になるのは確かなので、発表の場や査読の場が欲しいという意見はもっとも。(司会)
    • ステップアップ研修で論文対策をやっては?(浴さん)
    • 自分の要綱の内容程度でいいのなら嬉しいが…図書館界だけに通用するレベルの論文でいいのだろうか?(松原さん)
    • 実務の中で、根拠を示して論理立てていく、そのスキルがなければ自治体の中で主張できない。審査項目の中に研修の受講歴がある。研修を受けたことがあるなら、受けた後には報告書を書いたり、学んだことを自館で応用する方法などを当然考えたのでは?単にこれまで論文を書く習慣がなかったからであって、訓練次第。自分が講師を務めるデジタルライブラリアン研修では、大学院レベルの論文を書いてくる受講生もいる。(糸賀先生)
  • 質疑:研修受講歴について
    • 現在の案では研修を半日受けて1ポイントとなっている。研修を受けられる環境の人と、そうでない人では機会に差が出てくるかも知れない。(司会)
    • 新潟からでも東京に出るのは1回3万かかる。予算的にもシフト的にも厳しい。eラーニングの必要性。(松原さん)
    • 東大和市は距離は近いが、基本的に自費での参加となる。市に対して参加の呼びかけをしてくれるとありがたいが、JLAは民間団体なので市に認められるか不明。(浴さん)
    • 名古屋は交通の便はよいが、東京・大阪での研修でも行かない人が多い。自主性に任せると行ったり行かなかったり。現在は国社研の研修と児童サービスのみ、参加が公式に認められている。(田中さん)
    • 研修の体系化が必要。認定制度がそのきっかけになりうる。(司会)
  • 質疑:フロアからの発言
    • 今回の制度について、要件・項目など、全容を知らされない状態のまま本日の分科会を聞いていた。定めるに当たっては、会員での議論をしておくべきだったのでは。本審査にあたっては、平場(ひらば)での議論を通じて会員の意見を汲み上げた上で行うことを望む。(フロア)
    • 予備審査の内容は、募集の時点でHPに掲載してある。本審査の内容は未定なのでまだ出せない。(糸賀先生)
    • 「上級司書」に対する「初級司書」という資格があってもよいのでは。(フロア)
    • 必要性がないとは思わないが、上級だけで手一杯。(司会)
    • キャリア形成はライフプランと密接に関わる。すなわち、それで生活できるかどうか。予算を出す側では、正職員の福利厚生や休暇等を負担することを嫌がる。同じ能力のある人でも、民間委託で勤務する場合には生活できるだけの待遇を得られるかどうか。この点について考えは。(フロア)
    • 生活面での具体的な検討はない。認定をとった人をどうサポートするかは課題。(司会)
    • 官製ワーキングプアという言葉もある。とても独り立ちできない額の給料しかもらえず、親なり配偶者なり、他に稼ぎ手がいることを前提とした雇用になっている場合もある。生活できるだけの給料でなくても構わない、という人を食い物にした状態になっている。それは、そういう人に置き換え可能だと思われてしまった、過去のその図書館の責任。(糸賀先生)
    • 嘱託で30年働いてきた。技術としては身に付いていると思うが、文章書いてみてスキル不足を実感した。論文を書いてみることは、実力を測る上でも必要だと思う。(フロア)


 以下は自分の感想。
 会場は満員、皆結構熱心に聞いていた。注目のテーマなんだなぁ、と思う。
 話の上手な方が多くて、分かりやすかった。司会がリードする場面も多く、主催者としても認定制度の意義を訴えたい姿勢が読みとれた。館長さん、現在図書館以外の部署で働く職員さん、司書職採用の下で働く司書さんという人選もいい。欲を言えば非正規雇用で働く人の意見も聞きたかったな。


 内容については、色々と考え込まされた。
 司書資格を持たない一般職員でも、真面目に取り組めばそこそこの仕事ができるという話を聞いて、改めて司書の専門性って何だろうなんて思ってしまった。
 一般職の公務員の仕事にも、税務だの社会保険だの専門的な知識が必要なものはある。さほどITに詳しくもない職員が情報システム担当に配属され、必死に勉強して経験を積みながら仕事をする羽目に…なんて話も聞く。ある程度公務員の宿命だ。でも、図書館はそれとは違うんだ。と主張できる理由って、何なんだろう。


 また、図書館の中だけでなく外部にも納得してもらえる制度が必要、という糸賀先生のお話。まったくそのとおりなんだけれど、どうすれば実現できるんだろうか。
 審査の方法は今後も議論されていくのだろう。けれど、図書館員同士での議論だと「現職者にできること」を基準にした審査になりそうな気がする。現在の図書館の状態が社会的に評価されていなくて、それをなんとかするために認定制度を作るのなら、現職者に合致するように制度を決めてはいけないのじゃなかろうか。図書館の外にその基準を求めた方が、外部へのアピール効果は高いだろう。でもそうして外部目線で基準が決まったら、認定から外れる現職者が大量に出てきて、そんなもの図書館の仕事じゃない、と図書館員の方から拒否されそうだ。
 図書館に理解のあるよその分野の人求む、というところか。


 あとこれは本質に関係ないけど、話す人がしばしば「キャリアというと『キャリア官僚』みたいな良くないイメージがあるが、そんなことはなくて云々」と断っていたのがちょっと気になった。キャリア形成、そんなに抵抗のある言葉なのかー。自分にとってキャリアという言葉は「仕事も含めた生き方」だったので。

*1:この冊子も配布資料にあり

*2:大会要綱p131第3図参照

*3:大会要綱p140参照