定刻発車

定刻発車―日本社会に刷り込まれた鉄道のリズム

定刻発車―日本社会に刷り込まれた鉄道のリズム

 よそのブログで紹介されていた。直後に図書館の、通りすがりの書架で発見。こういう時は図書館の神様に呼ばれたと思うことにしている。神様のおすすめだけあって、最高に面白かった。


 「日本の電車はどうして時間通りに来るのか?」まず、こんな疑問を持つことがすごい。電車に乗らない人はいないけど、そんなことをちらっとでも考えたことがあっただろうか。

 この本では、社会環境、文化、歴史、システム、様々な視点からこの疑問を考えていく。鉄道はものすごく大きな、そして複雑なシステムなのだなぁ、と気付かされる。

 その複雑なシステムを安全に正確に動かしていくための信念と工夫が、圧倒的だ。個々の関係者の内面にまではあまり踏み込まずに、大局的な書き方がされているけど、関係者を一人一人クローズアップしていったら多分感動の連続。プロジェクトXが10本くらい作れるよ。

 そして自分のような乗客もまた、そのシステムの重要な要素なのだということに気付かされる。
 東京の満員電車を知る人に話を聞くと、「ガラスが割れるかと思う」「鞄なんてもぎとられる」「乗り降りにぐずぐずしてるのはほとんど犯罪」とかオソロシイ話を聞かされる。そういう大変な状況に耐えてでも定刻発車に協力してきた日本の乗客は偉い、とも言える。

 一方で、そんな無茶を日常的にさせられる社会ってどこか変なんじゃないか?という視点にもちゃんと言及されている。鉄道関係者と言えどもプロジェクトXな人ばかりではないし、まして乗客には年寄りも妊婦も車椅子の人もいる。これからは定刻発車が当たり前じゃない代わりに、他のものを大事にする社会を目指した方がいいのかも知れないよ、と。


 玉にキズは、時々誤字があること。しかも前に借りた人が神経質だったのか、ボールペンでいちいち直してある。図書館の本に書き込みしちゃいけないよ、と思いつつ、その気持はちょっと分かる。新潮社から最近新しく出ているみたいだから、そっちなら直ってるかな。


 この本を電車の中で読んでいたら、途中で駅に着いた。扉が開くまでに少し間があった。間といっても一分間足らずだけど、入り口付近で降りようとしていた乗客二人組は「遅っせぇ」と文句を言う。そんな事言うなよ!きっとトラブルがあったんだよ!そんなことより、ちゃんと定時に到着してることの方がすごいんだよ!と説きたくなる。
 電車通学・通勤の人は是非読むといい。電車が今日も普通に動いてることに感動できるし、ダイヤの乱れに遭遇した時も心にゆとりができる。

 「世の中に感動を増やしてくれる本は、いい本だ」by自分。