KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その5
その1、その2、その3、その4の続き。以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。項目立ては適当。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解ご容赦。特にディスカッションはメモが追い付かなかったので、議論がかみ合ってないように見えるところはおおむねxiao-2の腕のせい。
最後は質疑応答で、登壇者*1が全員前に並ぶ。登壇者以外からの発言はすべて「フロア」としている。
- フロア
- 安岡先生の話で「画像をばらまく」と言っていた。たとえば東方学デジタル図書館に掲載されているデジタル画像をとってきて、ORCASのサイトに載せるといった使い方をしてもいいのか。
- 安岡氏
- 司会*3
- 日本の図書館は、なかなかその段階まで行っていない。
- 永井氏
- 上原氏
- 東京大学の場合、CC-BYにしているのは総合図書館のみ。他の部局はまた違う方針。
- 司会
- 中国だと画像に透かしが入る。デジタル画像DBでも、紙焼きでもそう。逆に他の国のものは、中国の人はけっこうフリーに使うのだが。
- フロア
- 永井氏
- U-PARLの配架について言えば、自分の着任時にはすでに配架が決まっていた。NDC別ではなく、現地語が固まっている空間を作る、その棚に行けば自分の専門の地域に関する資料がすべて見られるという思想。
- デジタル化は粒度がポイント。文字、画像、形態素解析など。細かいデータが揃っている所では、そういう研究が発展する。
- マクヴェイ氏
- 研究者にとってのアクセスという話題に関連して。北米のライブラリアンにとっては、日本の情報と、中国やコリア等の情報でアクセスのしやすさが違うという現状がある。後者の方がアクセスしやすい。アクセス難易度の違いは、研究傾向や生産性に影響する。
- 分類や配架について。自分の図書館では、ユーザは自由にキーワードでアクセスするので、物理的配架があまり関係ないという状況がある。
- 安岡氏
- 研究者の行動に関しては割とコンサバティブな姿勢でいる。影響を与えるというより、実際の研究者の行動を見て、そういう使い方ができるように設計している。
- kanripoの方は、作った人の思想が割と現れている。漢文の解析も、作った研究者の考え方に影響されている。たとえば形容詞の扱い等。
- 菊池氏
- 上原氏
- フロア
- 安岡氏
- それはある。京都大学の場合、より劣化の激しい資料からデジタル化を行っている。どうしても必要があれば原本を見せられなくはないが。
- 菊池氏
- 上原氏
- 当館も基本は同様。研究者で、どうしても必要がある場合は見せる。
- その問題がより進んでいるのが中国。中国国家図書館では、デジタル化はするがその画像は館内閲覧のみで、かつ原本は出さない。ある程度はやむを得ない、持っている人が一番強いという面はある。
- マクヴェイ氏
- 原本を所蔵していて、その状態が良ければ、図書館というのは基本的に見せたいもの。
- 美術館だとまた違うのかもしれない。原本の保存も大事で、修復と利用のバランスは常に難しい。
- 司会
- 昔、ハーバード大学のワイドナー記念図書館に行ったとき、かなりヤバい状態の本でも見せてくれるのに驚いたことがある。
- フロア
- 菊池氏
- 地域の図書館等が持っている資料をデジタル化すること等を検討。結局お金の問題で、地域では予算が無いためにデジタル化できない所がある。
- 一方で、自分の経験として、海外の日本研究司書から「大阪のこの機関が所蔵している資料の画像がほしい」と相談されるようなこともあった。
- 司会
- 図書館について言えば、欧米と違ってlibrarianが日本にはいない。アジア研究図書館のように、「研究」を図書館がやるということがなかなか難しい。subject librarianでない。
- アジア系の図書館は、香港以外はだいたい同じ状況。
- フロア
- 配架について。本の原本は図書館に入れておいて、利用者が自分で配架を工夫できるというのがデジタル化のメリット。
- 四庫全書の校訂に過去関わった時の経験だが、誤りにも、機械的なミスタイプと、読み込まなければ分からない誤りがある。その違いをどう生かすか。注釈をどう本文に組み込むか。注釈というのは東洋的な文化でもある。古注と新注の違いなど、どう文字化するか。
- 安岡氏
- 自分のところのDB*6でいうと、注記の機能はDB外にある。理由は、本文の外に書くことができるから。
- 仕組みとしては作ったけれど、まだ動いていない。注記の文化がDBに移ってくるかどうか。
以下、まだもう少し発言が出たが、メモはここまで。
以下は感想というか、xiao-2が聴きながら思ってメモしてたこと。もう眠いので意味不明かも。
- デジタルアーカイブの話を聞くと、真っ先にユーザ像を想像する。平たく言えば「それはどういうユーザがどう喜ぶものか」という問い。
- デジタル化により「越境」が本当に起きうるとしたら、その一番の影響は、予想外のユーザ層や予想外な使われ方の出現という形で現れるだろう。予想外のユーザの振る舞いを観測するためには、どんな反応があったかをモニタリングするより他ない。
- 予想外のユーザの中には、研究者以外の人というのもある。となると、今更だが「研究者」「研究」の定義とは何だろう。研究機関への所属有無という基準でよいのか、他にありうるのか。
- 質疑の、DBや図書館等のデザインが研究者の行動をデザインするという指摘が印象的だった。
- 研究者が自分たちの研究行動に一番ぴったりするDBを作ると、当然プロ仕様で特殊化したものになるだろう。個々のDBはそういうものにしておいて、一般人は外部のポータルから画像だけ見るという傾向に今後なっていくのか、どうか。
- 作る側としての研究者/使う側としての研究者/作る側としての図書館/使う側としての図書館。この関係。
*1:2018-08-13 KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その1」を参照。
*3:先生っぽい感じの方だったが、自分は存じ上げず、レジュメ等ではお名前が分からなかった。教えて偉い人。→2018/09/01追記:コメント欄にてご教示あり。
*4:クレジット表示のみ条件とし、自由に使用可。詳細はこちら。Creative Commons - CC-BY4.0
*5:「Q デジタル化済の資料の原本が見たいです。 A 原本の保存のため、デジタル化された資料はデジタル画像での利用をお願いしています。」よくあるご質問:資料のデジタル化|国立国会図書館より
*6:紹介されたDBのどれを指していたかは不明。
*7:2013-12-01 連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」第4回「図書館記録におけるパーソナルデータの取り扱いについて」に行ってきた。〜後篇より、佐藤翔先生のお話
KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その4
その1、その2、その3の続き。以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。項目立ては適当。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解ご容赦。
- 京都大学人文科学研究所東アジア人文情報学研究センター 安岡孝一氏「デジタル図書館としての東アジア人文情報学研究センター」
- 東アジア人文情報学研究センター*1について
- (建物の写真を表示)スペイン風の建築。元は図書館。
- 戦時中は満州研究を行っていた。漢籍を多く所蔵している。
- 1965年に東洋学文献センターができる。当時、日本学術会議により文献センター構想というものが作られ、それに京都大学から手を挙げた形*2。
- 2000年、漢字情報研究センターとなった。この頃、自分が関わり始めた。
- 2009年、組織改編されて東アジア人文情報学研究センターとなる。
- 1980年代から、古典文献のデジタル化を行ってきた。現在も専用端末やテープ等が残されているが、もう読めない。
- 2000年頃から、World Wide Webで動くDBになった。
- 今日は6種のDBを紹介する。全体では22種類くらいのDBがあるが、長らくメンテナンスをされていないものもある。今日紹介する6つはかなりカレントなもの。
- 全国漢籍データベース*3
- 漢籍を所蔵する77機関の連合目録。
- 目録なので、所蔵しているかどうかという情報が出るだけ。検索するとレコードがずらっと並び、クリックすると「ここにある」と分かる。
- 本を探すだけならOPACでいいのではないか?何故いけないかというと、漢籍の場合は本の中に本があり、その中にまた本があるという構造になっている。5段階まである。
- 資料を探すユーザ側は下層のタイトルで探したい。一方、運用側は上層のタイトルが分からないと出納できない。この問題を克服するため、オリジナルDBを作ることになった。OPACだと、2階層くらいを越えるとうまく表現できない。
- 当初は自学の所蔵資料だけのつもりだったが、東京大学等複数の参加館を巻き込んだ連合目録になった。
- 同定されていないので、検索結果に同じレコードがいくつも並んでいると批判されたりする。しかし漢籍の場合は刷を見ないと、同じかどうか判断することができない。なので、まとめることはしていない。
- 代わりに、資料1枚目の画像を見られるようにしている。システム的に全文の画像を載せるようなことはできないが、刷の違いくらいは分かる。
- 東方学デジタル図書館*4
- 拓本文字データベース*5
- 拓本資料は結構多い。画像でデータをとって、一文字ずつに切り離せたものを収録。切り離す部分は機械化しており、読むのは人。
- 同じ字を画像で探せるDB。
- 拓本は当時の文字体を伝える唯一の手段。
- 文字の好きな人向けのDB…というつもりでいたら、意外なことに書家からのアクセスが多い。
- このDBのツールは、IEでしか見られない。
- CHISE*6
- Kanripo*8
- 古典中国語(Kanbun)コーパス*12
- 以上がDB紹介。
- 運用上の難点
- 運用側の所見
- 研究者以外の、思ってもない人に見られている。
- DBのアクセスパターンが変化してきている。文字を入力しないアクセスが増えている。どこかに張られたリンクをたどってきていると思われる。
- 最近Googleがreferを示さなくなったので詳しいことはよく分からないが、人間ではなく機械的に見られている。どこかのページに画像をずらっと張り付けたりしているのかもしれない。
- 検索型よりばらまき型という傾向。
- 古いDBにはコアな客がついているが、永遠に運用していける訳ではない。マシンの載せ替え等もある。
- 画像をばらまいておけば、誰かが拾ってくれる。
- テキスト系は、既にGitHub化している。画像系もそういうふうにできるか。
- IIIF*14にはもちろん対応していているが、ばらまかれる用のものとは言えない。あまり明確な展望はない。
- 東アジア人文情報学研究センター*1について
4つめのメモはここまで。次はディスカッション。…まとめるのが大変そうだから、そのうち。
*2:このあたりの説明は下記に詳しい。センター改組計画の史学的観点|東アジア人文情報学研究センター
*10:参考:『四庫全書』と関連叢書の調べ方|国立国会図書館リサーチ・ナビ
*13:正直このへん自分には理解できず、涙目でググってみたら元締めっぽいサイトがヒット。Universal Dependencies ここにある説明文によると、異なる言語の間で矛盾しない文法的注釈の枠組み、かつオープンなコミュニティでもあるというものらしい。分かったような分からんような。
*14:IIIFって何?という方はこちらを参照。2016年4月28日 digitalnagasakiのブログ|今、まさに広まりつつある国際的なデジタルアーカイブの規格、IIIFのご紹介
KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その3
その1、その2の続き。以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。項目立ては適当。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解ご容赦。
- 関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(KU-ORCAS)*1 菊池信彦氏「関西大学KU-ORCASによる東アジア文化研究のためのデジタルアーカイブプロジェクト」
- 他の機関の方からは、実際にやっている話をしてもらった。自分からは「こうなるといい」という希望の話。
- KU-ORCASは、平成29年度の文部科学省「私立大学研究ブランディング事業」*2により始まった。東アジア文化研究のためのデジタルアーカイブ。
- ブランディングということで「関西大学と言えば東アジア研究、東アジア研究と言えば関西大学」という状態を目指す。
- なぜ東アジア研究か
- 泊園書院という漢学塾があった*3。文政8年から四代にわたって続けられてきたもの。大阪の町人文化の発展。
- 戦後の1951年、創始者の子孫でもある門弟が、蔵書を関西大学に寄贈。東西学術研究所*4となった。
- 漢学塾ということで「東」は分かる。何故「東西」となったかというと、当時の理事長は、東西両文化の比較が重要と考えていた。
- KU-ORCASの前身になったのは、アジア文化研究センター(CSAC)*5。2005-2009年と、2011-2016年の2期。各種のDBを作っていた。
- デジタルアーカイブの文脈としては、『アーカイブ立国宣言』*6で紹介されたような日本の地域資料という観点とはやや異なる。東アジア文化研究のブランディングを目的とするということで、国内に加えて海外ユーザも対象。
- 関西大学の東アジア研究の特徴は、文化交渉学*7。国家や民族の単位を越えること、人文学の諸分野を包括すること。越境性。
- 以上の特徴をまとめると下記のとおり。
- 具体的には、関西大学の所蔵資料のデジタル化や、バチカン図書館との連携*8。
- 3つのオープン化とオープンプラットフォーム
- 今後の見通しについて、個人的な考え
- デジタルアーカイブにおいて越境性ということをいかに提供するか。どういう機能が必要か。
- 「デジタルアーカイブは画像さえ出せばいい、そこから先の資料の分析は人文学がやること」という考え方がある。だがそうは思わない。
- たとえば自分はスペインが専攻。スペインは多言語国なので、各言語の資料を横断的に探せるようにしたい。その部分を機械にさせたい。
- 越境には二つの面がある。Nationalな枠からの越境と、学問分野の枠からの越境。
- 前者は、ユーザの国際化。機能で言えば、インターフェースの多言語対応、研究対象を越境。正確でなくても訳。
- 後者は、一人の研究者が学際的研究を行うこと。参考資料の表示、複数分野の研究者が、共同で資料を読むことのできる環境。アノテーションや、コミュニケーション。
- こういった機能を色々今後開発していきたい。
- まとめ
- 本日の話の中で図書館が出てこなかった。図書館の資料をデジタル化するという話題は出てきた。図書館との連携も視野に入っている。しかし、今のところ図書館側にはあまり関心を持ってもらえていないように感じる。
- 自分は以前図書館に勤めていた。その立場にいた時は、デジタルヒューマニティーにおいて研究者と図書館が協力するのは当然だと思っていた。しかし外に出てみると、考え方が違う。
- 学内連携をどこまで進めることが必要か。図書館に対してどうアプローチするか。学内に波及していくためにどうするか。色々と考えている。
3つめのメモはここまで。続きはそのうち。
*1:関西大学アジア・オープン・リサーチセンター(KU-ORCAS)
*2:平成29年度「私立大学研究ブランディング事業」選定事業一覧
*6: アーカイブ立国宣言: 日本の文化資源を活かすために必要なこと
*7:この語は自分には馴染みが薄いのだが、参考になりそうな本があった。あとで読む。 文化交渉学のパースペクティブ (関西大学東西学術研究所研究叢刊)
*8:2017年9月に、関西大学はバチカン図書館と協定を締結している。詳細はこちらを参照。2017/10/06付け関西大学プレスリリース「バチカン図書館と東アジア関連資料の研究における協定を締結」
*9:IIIFって何?という方はこちらを参照。2016年4月28日 digitalnagasakiのブログ|今、まさに広まりつつある国際的なデジタルアーカイブの規格、IIIFのご紹介
*11:このへんxiao-2のメモはいい加減だが、大学ホームページにちゃんとした説明がある。研究体制|関西大学アジア・オープン・リサーチセンター
KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その2
その1の続き。以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。項目立ては適当。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解ご容赦。
- 東京大学附属図書館U-PARL 永井正勝氏「東京大学附属図書館U-PARLの活動と研究図書館としての漢籍デジタル化の試み」前半
- ホームページに4つ参考文献を挙げている。今日の話についての詳細は、こちらも参考に*1
- 東京大学の新図書館計画
- 2012年から始まった。大きな柱は下記の3つ。
- 総合図書館別館にライブラリープラザを作る
- 自動書庫を作る
- アジア研究図書館を新設する
- 本館の噴水の下に当たる地下にライブラリープラザ。ここはアクティブラーニングを支援するところ。その下に書庫。
- 2012年から始まった。大きな柱は下記の3つ。
- アジア研究図書館
- 本館4F。開架5万冊、自動書庫300万冊。
- 東京大学の図書館は、自分が就職した頃は35館あったが、現在は30館。今作っているアジア研究図書館が31館目となる。
- このアジア研究図書館のためにU-PARLができた。附属図書館に設置されたものとしては初の研究部門。2014〜2018年度の5か年計画で、今年が最後。2期もある予定。
- 現在特任教員、司書等10名体制。兼務教員も入れると14名。
- 5か年のうち、3年はアジア研究図書館の構築支援を行ってきた。
- フロア設計、分類(独自のものを使用)、蔵書構築等について、研究者が考えている。
- 日本の学問風土として、研究に必要な本は研究者個人が自ら集めるという傾向がある。これに対し、欧米では図書館に集約するという考え方。アジア研究図書館では後者で、東大の30の図書館に分散している資料を、アジア研究に関するものは集約したい。
- いわゆるサブジェクト・ライブラリアン*2を設置したい。制度的に難しいところもあるが、2020年の開館に向けて色々やっている。
- 図書館の準備中。
- フロア構築、配架プラン。資料は地域別で、アジアを東から西へ縦断するような配置。
- フロア中央にガラス張りの防音スペース。
- 絨毯や、スタッフ用の部屋の給湯器まで我々が選んでいる。
- 現在、本館に一部の本を集めつつある。
- 資料デジタル化*3
- 図書館準備の傍ら、研究図書館の調査研究も行う。サブジェクトライブラリアン、研究支援と並んで、所蔵資料の資料デジタル化も使命。
- デジタル化と言ってもいきなりプログラムを書くという訳にはいかない。まずは出すのが肝心、ということで、Flickr*4で公開することにした*5。アメリカ議会図書館等でもFlickrを使っている*6。
- 気をつけるべき点もある。その一つは情報の粒度。
- ひとつのAlbumをクリックすると、アノテーションが表示される。アノテーションの最初と最後は識別子になっているが、その間には著作や版に関する説明。これは研究者が書いている。
- 特に法帖については、責任表示に重層性がある。撰(もとの文章を作った人)→書(筆で書いた人)→刻(彫った人)→拓(それを拓本にとった人)等*7。個別資料→資料化→版→著作といった構造。
- このあたりのことは中を読まないと分からない。中を読むのは研究者が関与。
- 実際のテキストを見ると、一枚の紙に複数の帖が貼り付けられているケースもある。読み込むと複数帖だと分かる。書誌情報だけでは分からない。読み込んでアノテーションを書く。
- 図書館と研究者の関係でいうと、図書館が作った書誌情報に冊のデータが紐づき、デジタル画像が紐づくというのが従来の形。自館の場合は研究者が書誌の部分から関わる。
- メタデータは公開。情報基盤センター教員にも関わってもらい、IIIF*8可能化もいま同時に動かしている。こちらは承認待ち。
- 従来は著作、版などの管理が個別に行われていたが、これからは作品メタデータ、資料メタデータ、テキストアノテーションが有機的に提供される。
- ライセンスは、当初厳しめにCC BY-NC-SA*9にしていた。今はCCBY*10にしている。
- 東京大学東洋文化研究所 上原究一氏「東京大学附属図書館U-PARLの活動と研究図書館としての漢籍デジタル化の試み」後半
- 東京大学でのデジタル化の話と合わせ、これまでの一般的な漢籍DBの傾向について話す。
- 白話小説研究におけるデジタル画像の使われ方
- 自分は中国の明・清時代の白話小説*16を研究していた。
- 漢籍における版本の問題として、同じ本について版がたくさんあり、本文が微妙に違うという点がある。
- もう一つの問題。木版本の、同じ系統の本でも違いがある。
- 国立公文書館所蔵本と、イェール大学所蔵本のデジタル画像で比べてみる。前者がオリジナルで、後者が復刻。本文に細かい違いがある。
- 他の例でも、復刻の際に読めなかった字は黒四角になっているなど。
- 刷りの早い遅いによっても違う。枠外に書かれた批評が削られていたり、板木がすり減って部分的に変えるケース。責任表示を後で入れ替えるケース。
- 影印本でも原本のままとは限らない。見栄えをよくするために枠の欠けを埋めたり、蔵書印を消す等の修正がされていることがある。処理の入っていない画像があることが大事。
- 白黒だと分からないケースもある。「西遊記」での例。沙悟浄の顔や足の形が、版によって大きく違うものがあった。原本を見に行ってみると、破れたところに紙を継ぎ足して手描きしていた。
- 東大図書館所蔵資料のデジタル化
2つめのメモはここまで。続きはそのうち。
*1:とあったが、どのページだったのかメモし損ねてしまった。とりあえず下記を参照。U-PARLとは|U-PARL
*2:辞書的な定義は下記参照。サブジェクトライブラリアン|コトバンク。もっと知るにはこの本オススメ。 サブジェクト・ライブラリアン: 海の向こうアメリカの学術図書館の仕事
*3:以後、上原氏のお話も含めた東京大学U-PARLでのデジタル化については、2017年に行われたイベントの報告記事が参考になる。U-PARLホームページ【報告】アジアンライブラリーカフェno.002 古典籍 on flickr!〜漢籍・法帖を写真サイトでオープンしてみると〜 各報告の配布資料も見られる。
*5:U-PARL, UTokyo Library System
*6:The Library of Congress|Flickr
*7:説明ではもっと階層があったが、メモがついていけなかった。
*8:IIIFって何?という方はこちらを参照。2016年4月28日 digitalnagasakiのブログ|今、まさに広まりつつある国際的なデジタルアーカイブの規格、IIIFのご紹介
*9:Creative Commons — 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 — CC BY-NC-SA
*10:Creative Commons — 表示 4.0 国際 — CC BY 4.0
*12:具体的なDB名はメモできなかったが、これかな。早稲田大学図書館 古典籍総合データベース
KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その1
こういうのに行ってきた。
2018年8月9日(木)
KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」
http://www.ku-orcas.kansai-u.ac.jp/news/20180612_113/
聴衆は25名程度だったか。
という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解ご容赦*1。
- マクヴェイ山田久仁子氏「ハーバード大学の東アジア研究におけるDHへの取り組みの現況と展望」
- アメリカの学術図書館、東アジアを専門とする図書館で働いている。初めてライブラリアンになったのは20年ほど前。色々と幸せな環境で働くことができた。その視点から、Digital Humanities(以下DH)、Digital Scholarship(以下DS)について話したい。
- 本日のOutline*2
- アメリカの人文学研究、東アジア研究
- Ben Schmidtが、7月27日のブログで、人文学の危機についての記事*3を投稿していた。アメリカの学生の専攻科目のバランスを調べたもの。
- 彼は2013年にも同じテーマのブログを書いていた。その時は「心配ない」という結論に達していたが、今回は「やはり心配」という結論になっている。
- それほど人文学は退潮傾向。多くのアメリカの人文学者の気持ちを表したもの。
- また、アメリカの公共教育における第2外国語履修者の数を2006年、2009年、2013年、2016年の数値で比較したデータを見てみる*4。ヨーロッパやロシア語等は軒並み落ちている一方で、日中韓は比較的健闘している。東アジア研究への注目を反映。
- ハーバード大学の取り組み
- ハーバードにおいても、ここ数年で危機感が非常に強まっている。Digital Scholarship Support Group*5というものが作られた。ハーバード全体のDS関係者を横につなぐもの。
- コアになっている組織がいくつかある。Academic Technology of the Faculty of Arts and Science*6はデジタル機器等を扱うところ。またIQSS*7はData driven science、データ中心の研究を推進する組織。
- このように、大きな傘の中にいろいろとある、という形。
- 長いものでは80年代から活動しているグループもある。それらのグループを見ると、日本や中国のことを扱うセンターがいくつかあり、かなり早い時期からDHやDSに取り組んでいた。
- ハーバード大学図書館の取り組み
- さきのグループの中には、Harvard Library Office of Scholarly Communication*8やLibrary Technology Service*9等、図書館系の組織も含まれる。オープンアクセス等に取り組んできた。
- 中心的な取り組みはおもに3つ。
- デジタル・リテラシーの拡大
- 研究のためのデジタル活用法、その積極的なサポート
- デジタル基盤の構築。"well-integrated"、つまりお互いに馴染むよう。互換性のないものをデザインしない。
- これらを達成するために、デジタル教育フェロー*10が設けられている。8月にFoundations Seminarを開催。たとえばDigital Teaching Method等を扱う。
- ハーバードのLibrary Technology Serviceは、伝統的に図書館の中に置かれていた。組織改編で図書館外の組織になったが、やることとしては図書館のサポートがメイン。
- その中でデジタルに関連するものとしては、Digital Repository Service。少額だが料金をとっている。目標はハーバードのコンテンツを永久保存すること。永久保存が目的なので、サステナビリティ、セキュリティが重要。
- 1ヶ月くらい前、秋ごろからDRSに入っているCJK史料のフルテキストサーチができるようにするという大学の方針が最近示された。最近のニュース。
-
- 主要な東アジア研究組織の紹介
- ハーバードの東アジア文明及び言語学部は、東アジアを専攻する大学院生81名、学部生53名が在籍。文化や言語等を研究。
- イェンチン図書館は東アジアを担当する図書館。もとはイェンチン研究所の付属図書館で、研究所は現在も独立しているが、図書館の方はハーバード大学図書館に移管された*11。
- イェンチン図書館にはEast Asian Digital Humanities Lab*12が設けられている。DHに比較的早い時期から関わっており、ラボの環境が整っていた。
- ハーバード全体では70ほど図書館があるが、ラボを持っている図書館は他にない。
- ラボの仕事は、従来の仕事と100%互換という訳ではない。自分の同僚のライブラリアンでパブリックサービス*13担当の人が一応監督はしているが、ラボの仕事は学生が中心。サイト管理等も。
- このラボで、HYL DH Forumというイベントを2017年から実施している。2017年2月に初のミーティング。以後色々なトピックを取りあげている。Data visualizationが今注目のトピック。
- 主要な東アジア研究組織の紹介
-
- イェンチン図書館資料電子化プロジェクト
- 図書館資料はどのくらいデジタル化されているか。多くの種類の資料を所蔵している*14。
- 特に多いのが中国貴重書。本以外に写真等もある。日本関係では、Petzold Collection*15という掛け軸中心のコレクションなどもある。また満州国関連資料として絵葉書。これはデジタル化し、メタデータも作った。ひな形(デザインカタログ)など、見て面白いもの。
- ビューアでこのように見られる。ちなみにこれはNaxi Manuscripts(ナシ語文書)といって象形文字の一種。
- このシステム自体は古いが、IIIF*16に準拠しているので他の大学のコンテンツ等ともあわせて見られる。
- ブラウザ上のメニューから"Cite"でサイテーションを表示すると、永続的リンク(Persistent Link)を見ることができる。
- Japan Digital Research Centerの取り組み
- 日本や中国の研究所は、早くからデジタルのサポートが充実していた。その一つがJapan Digital Research Center*17。元はライシャワー研究所の下にあり、デジタルと紙の本の両方を扱っていたが、後者はイェンチン図書館へ移管され、デジタル一本になった。Faculty Support等を行っている。
- Japan Digital Scholarship Librarianに就任しているのはKatherine Matsuura氏。イェールで論文を書いている人。Digital Fellowという制度も新しく設けられた。
- 主なプロジェクトの一つはConstitutional Revision Research Project(憲法改正研究プロジェクト)*18。ウェブアーカイビング。2005年頃から行っている。世の中のアーカイブとしては割と早い時期からなので、フレームワークやオープンリソースの扱い等、今見ると問題がいろいろある。
- もう一つは、Japan Disasters Digital Archive*19。東日本大震災に関するツイートやコンテンツ等を記録したいという目的のもの。
- データを収集するのでなく、リンクを張っている。リンク先は国立国会図書館や大学等。APIを経由して一元アクセスできる。ツイートやコンテンツをマップ上に表示して、どこで発信されたものか見ることもできる。登録ユーザが自らキュレートすることも可能。
- DS関連プロジェクトの紹介
- Japan Disasters Digital Archiveは、GISの研究に関わっているLex Berman氏*20が震災後に作ったもの。
- Donald Sturgeon氏*21による、中国の本のテキスト化プロジェクト*22。Digital Sinology*23。
- 上記プロジェクトを率いているのはPeter bol氏*24。中国大陸等のパートナーとともに。研究者でもあるが、今年まで大学の管理職でもあった。その他MOOCs*25を作ったりしている。
- China Biographical Database Project (CBDB)*26。オンラインで自由に使える中国人物DB。唐から清までの人物をカバー。
- Hedda Morrisonストーリーマップ*27。Morrisonは東洋文庫のモリソンコレクション*28を作った人。ドイツで生まれたあと、生涯で国を転々としながら活動していった。そのライフストーリーを地図上に示している。
- イェンチン図書館資料電子化プロジェクト
1つめのメモはここまで。続きはそのうち。
*1:ちなみに当日はネット中継があったらしい。そのうち動画で公開されることを(特に根拠もなく)期待。
*2:スライドでこのようになっていたが、ボケッと聴いていたせいでどの話題がどの項目か分からなくなった。以下はxiao-2のメモ準拠で項目立て
*3:Friday, July 27, 2018 Sapping Attention | Mea culpa: there *is* a crisis in the humanities
*4:このデータの出所はメモできなかった。先述のブログをきちんと読むと書いてあるのかも?
*5:Digital Scholarship Support Group
*6:Academic Technology of the Faculty of Arts and Science
*8:Harvard Library Office of Scholarly Communication
*10:Digital Teaching Fellows(DiTHs)
*11:このへんの大学内の組織の説明は、外部の人間には呑み込みにくい部分がある。同じ方の別イベント登壇時のメモ(2016-06-26 シンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館〜図書館利用行動を中心に〜」に行ってきた。なども参照。
*12:East Asian Digital Humanities Lab
*13:図書館の世界における「パブリックサービス」の意味は下記参照。図書館サービス|コトバンク
*14:Research Guide for East Asian Studies
*15:ブログを書くためにPetzold Collectionをググったら紹介動画を発見。
*16:IIIFって何?という方はこちらを参照。2016年4月28日 digitalnagasakiのブログ|今、まさに広まりつつある国際的なデジタルアーカイブの規格、IIIFのご紹介
*18:Constitutional Revision Research Project
*19:Japan Disasters Digital Aschive
*25:ChinaX: China's past, present and future | edX
*26:China Biographical Database Project
*27:Story Map JS:Hedda Morrison
*28:モリソン文庫の詳細はこちら。 モリソン文庫の渡日 東洋文庫15年史 - 公益財団法人 東洋文庫
大阪市の新図書館パブリックコメント募集中
こんなのを見つけた。
大阪市ホームページ|(仮称)こども本の森 中之島」施設基本方針(素案)についてのパブリックコメントを実施します(平成30(2018)年6月29日付)
http://www.city.osaka.lg.jp/templates/jorei_boshu/keizaisenryaku/0000440070.html
募集期間は平成30(2018)年6月29日〜7月27日まで。施設の構想がコンパクトにまとめられている。ニュースで切れ切れに情報を得てはいたが、このページでようやく全体構想が分かってきた。改めて情報を整理。自分のために。
- ここまでの経緯
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- 平成29(2017)年11月 市と安藤忠雄建築事務所の間で覚書締結。詳細な内容は分からないが、市と事務所の役割分担を定めたもの。
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- 平成29(2017)年12月5日 市議会で、負担付き寄附*3の受納を議決。この際の議論で、もう少し詳しい条件が明らかになる*4。以下に要約。
- 寄附の内容:「本の森」建物と、「本建物の建設等に伴い撤去が必要となる公園施設の代替となる公園施設の用に供する建物*5」。
- 条件:大阪市の公の施設として設置する旨の条例を制定し、「子供等に対し、文学を中心とした良質で多様な芸術文化等に触れる機会を提供する施設として開館すること」。大阪市が条件に違反した場合、寄附者は寄附に係る契約を解除できる。その場合大阪市は「本の森」と代替施設を返還しなくていいが、それらにかかった費用を負担する。
- 代替施設の完成後、本の森の寄附を受けるまでの間に、市の責任による理由で契約を解除した場合、大阪市は代替施設の建設等の費用を負担する。
- 大阪市は企業、個人からの寄附を募集、寄附金を収受。寄附者は企業等に対して寄附の依頼、勧奨を行うという役割分担。
- 企業・個人からの寄附で集めるのは、準備費用と5年分の運営費に当たる金額。
- 準備費用:蔵書の購入費や蔵書管理のためのシステムの調達、施設に必要な備品等の購入費。概算で5,000万程度。
- 運営費:人件費、光熱水費、設備の保守点検費、蔵書の購入費、事業費、修繕費等。概算で1年5,000万円程度。
- 6年目以降も継続して寄附を確保する方策として、市からの情報発信、クレジットカード決済利用、館内への寄付者銘板設置、ガバメントクラウドファンディング*6などを検討している。
- 平成29(2017)年12月5日 市議会で、負担付き寄附*3の受納を議決。この際の議論で、もう少し詳しい条件が明らかになる*4。以下に要約。
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- 平成29(2017)年12月21日 寄附金受付開始
大阪市ホームページ|(仮称)こども本の森 中之島」への寄附のご協力をお願いします
http://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000420126.html
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- 平成30(2018)年4月5日 建物内観を公表*7
- 図書館の基本構想(パブリックコメント素案の情報から、xiao-2が気になったところをピックアップ)
- 今後の予定
- 平成30(2018)年9月 設置条例提案予定
- 平成30(2018)年秋ごろ着工
- 平成31(2019)年秋ごろ開館予定
- 感想など
- ずいぶんスピーディーな展開だなー、というのが最初の感想。公表されている開館予定までは1年ちょっとしかない。建物の工事もさることながら気になるのは中身だ。運営は指定管理者によるとのことだが、そちらの公募情報は見つからなかった。公募ではなく、もう決まっているのだろうか。
- 運営費を寄附で賄うと聞くと「6年目以降ちゃんとお金集まるの?」とは誰しも思うところで、議会でも複数質問されていた。実際に3月時点で集まった金額は法人から2億4934万円、個人から5185万円というから、やはり法人が主力だろう。
- 蔵書25,000冊というとそれほど大きな規模ではない。大阪市立図書館の統計*10に各館の蔵書冊数が載っている。児童書の冊数だけで見れば生野図書館(平成28年度24,183冊)と同じくらいか。
- イメージ図を見ると、吹き抜けを囲う壁一面に本棚を設置し、本に囲まれた空間を作るそう。つい頭をよぎるのは先日の大阪北部地震で流れていた、近隣にある大阪府立中之島図書館の惨状。新図書館がイメージ図のとおりだと、吹き抜け2階分の高さから本が降り注いできそうで怖すぎる。もっとも素案にも「防災対策を徹底」とあるし、これはあくまでイメージであって、当然対策が取られるのだろう。
- 中之島図書館を思い出したついでに歴史を振り返れば、そもそも中之島図書館も篤志家の寄附によるものだそう。明治のお金持ちはスケールがでかい*11。
住友グループ広報委員会|大阪府立中之島図書館 人物編
https://www.sumitomo.gr.jp/history/related/nakanoshima-lib/index03.html
*1:2017年9月19日付け日本経済新聞「安藤忠雄氏、大阪・中之島に児童図書施設」、同日付産経フォト「安藤忠雄氏 大阪市に児童向け図書館の寄付提案」、同日付毎日新聞「大阪・中之島にこども図書館寄贈 「本や芸術に触れる場に」 寄付募り設計・建築」、9月20日付け朝日新聞「安藤忠雄さん「こども本の森」建設、寄付へ 大阪中之島」
*2:どうでもいいことだが、この呼び方が「児童図書施設(日経)」「児童向け図書館(産経)」「児童図書館(毎日)」と新聞によってばらついているのは何なんだろう。
*3:負担付き寄附は、地方自治法第96条9項で議会の議決を要すると定められている。なお、ググったら詳しそうなサイトが出てきた。地方自治法web辞典|議決事項のうち「負担付きの寄附又は贈与を受けること。」
*4:全文は、大阪市会会議録で読める。平成29年9〜12月定例会常任委員会12月05日 議案第176号
*5:xiao-2注。以下では、略して代替施設と呼ぶ
*6:xiao-2注。ガバメントクラウドファンディングの参考:Readyfor|ふるさと納税
*7:平成30(2018)年4月5日付け日本経済新聞「大阪市こども本の森、完成予想図が判明」
*8:朝日新聞デジタル「子ども図書館に寄付金3億円 安藤忠雄さん建設、着工へ」(2018年6月27日付)等
*9:ただし12月の会議録では、安定運営のために物品販売やイベント等も検討するような言及があった。有料の部分もあるということか。
*11:…と感心して眺めていたら、工期も工費も大幅オーバーしたと書いてあった…その轍は踏まないで。
阪南市立図書館へ行ってきた。
機会があって、大阪の阪南市立図書館*1へ行ってきた。2018年3月某日、いち利用者としてのレポート。
- アクセス、周辺環境
南海電鉄尾崎駅から歩いて5分ほど。道路は2車線、歩道との間には路側帯のみ。両側に飲食店や家具屋などが建ち並ぶ。ただし空きテナントやもう営業していないらしい店もあり、やや寂しい印象を受ける。
市役所の脇の道を少し入る。途中から石畳風になっていて、奥には集合住宅のようなコンクリの建物も見える。阪南市立文化センター「サラダホール」の中に図書館がある。
- 入口
グレーの建物。正面入口は自動ドア、桜の季節らしく花びら型に切った色紙が飾られている。入ると、2階分を吹き抜けにしたロビーがある。入ってすぐ右はホールの事務所、右側は催し物等をやる大ホールへ続くようだ。
左側奥に、図書館への入口がある。ここも自動ドア。ドアの脇に、利用案内パンフレットや市の催しのチラシ類が置かれている。ここで目を引いたのは、図書館の利用案内パンフレットに、日本語だけでなく英語・中国語・韓国語のもの*2もある点。それほど大きな図書館ではないのに、これだけ対応されているというのは熱心なことだ。掲示によると、これらのパンフレットは阪南市国際交流サークルの協力で作成しているらしい。どういう団体だろうとググってみると、関西国際センター研修生支援協議会という団体のサイト*3がヒット。そういえばここは国際交流基金の関西国際センター*4とも近い。そういうご縁か、と納得。
なお、パンフレットスタンドの陰の壁にはめ込まれた「定員表」という表示板も発見。建物を建てた時のものだろうが、それによれば定員280名とある。建築者側の想定する定員というものをあまり意識したことがないので、ちょっと面白かった。
- リサイクルブック「つながり」
図書館はいったん後回しにしてロビーに戻り、建物出入口すぐ左側の部屋へ向かう。阪南市立図書館では、図書館と市民の協働事業としてここで週1回リサイクル本販売を行っている。今回この図書館を訪れた目的のひとつ。
部屋はさほど広くないが、天井が高いので案外閉塞感がない。赤みがかった柔らかい光の照明が、天井から下がっている。BGMが流れている。床は茶色のフローリング、二辺の壁に作りつけの白いスチール書架が3つ。木製のすじかいで補強されている。部屋の中央にブックトラックが3台、三角形になるよう置かれている。その他、壁際に配置された折り畳み長机にも本が並ぶ。別の長机がレジらしい。座席は見当たらず、中で読むというより、選んで持ち帰ることに特化した感じだ。
書架とブックトラックに本が置かれている。マンガ単行本や雑誌がブックトラック、それ以外が壁際。壁際の本は読み物とそれ以外に分けられている。NDCではなく、ゆるく分類されている。分類を記した厚紙の見出しが所々差し込まれているが「小説」「スポーツ」「ビジネス」等に交じって、冊数が少ないのに「人権・反戦」「宗教」などの見出しがあるのも面白い。
書架には本だけでなく、おもちゃや手作りらしいポップアップカードも飾られている。また上から桜の花を模したのれん風の飾りが下がっていたり、長机の上の本はバスケットやブリキ缶に入れるなどファンシーな感じ。本は基本的に除籍本なので、ブッカー*5が掛けられ、天に「リサイクル本」の印が押されている。中にはブッカー無しで帯つきのもあった。後で調べたら除籍本以外に寄贈本も扱っているそうだ。価格は30円、50円、100円。100円のものはごくわずか。
スタッフが3名。エプロンに名札をつけた女性2名と、男性1名。本の整理や値付け、お金のやりとりなどをするらしい。訪れた子どもとのんびりおしゃべりしている。近所のおばちゃんとしゃべっているみたいな雰囲気で、和やかだ。お店とは違う、この距離感は市民活動ならではだな、と思う。図書館の場合、働く人とユーザの距離が近いのは良いことばかりでもなく、たとえばデリケートなテーマの本を探す時この距離感だと使いづらい。だから図書館はあくまで従来の距離感で存在して、別途こういう付帯設備が存在するのがちょうどよい。
それにしてもこの空間は何だろう。内装こそ手作りらしいが、入口のすぐ横という良い場所で、フローリングや天井の高さ、音響施設など妙に快適な空間だ。後で建物案内図を見て謎が解けた。ここは元レストランで、その跡地でやっているらしい。
- 図書館入口と閲覧室全体
「つながり」を出て、図書館へ向かう。入口は自動ドア。入ると左手に展示ケースがあり、図書が展示されている。ガラスの天板に、下は面陳できる斜めの台。単なる展示コーナーにしては立派なケースだが、何かの転用だろうか。横に小さな手洗い場がある。
図書館はワンフロアで、横長の空間。天井の高さが入口付近と奥の方で異なっている。入口付近は普通の高さ。奥に行くと2階分の高さで、天井と壁の間がカマボコ状に丸くしてある。広く見える工夫だろうか。書架は明るい色の木製。
入って右手に貸出返却カウンターがある。カウンターは部屋の内側を向いている。カウンターに向かって立ち、閲覧室の中から見ると、右側が児童コーナー、左側が一般書コーナーで、カウンターの右脇から人が入ってくる感じ。
- カウンター
カウンターの右脇に、青いコンテナが2つ置かれている。ひとつは寄贈本受け付け用と書かれている。図書館での寄贈本というのは微妙な扱いで、有難いものもあるけれど、欲しくないものを持ち込まれるケースもあるので悩ましいと聞く。こうして寄贈本を置ける場所が常設されているのは珍しい。これも「つながり」があり、つまり図書館として所蔵できない本の行き場が確保されているからできることだろう。
さらに興味深いのが2つめのコンテナ。「再リサイクル本」とある。説明を読むと、買ったリサイクル本が要らなくなった場合、ここに寄贈して再度リサイクルに回せるということらしい。これは良い。「つながり」を覗いた時にも思ったのだが、ブッカーが掛かって天地印が押された本というのは、読んだ後の処分に結構困る。ずっと手元に置くほどでもない場合、人にもあげにくいし、古本屋さんも喜ばないだろう。再度リサイクルに回せるというのは良い。
カウンターのすぐ近くにCDの棚がある。また蔵書検索用の端末が3台。蔵書検索は立って使うようになっているらしい。全般的に座席は少ない。
- 雑誌コーナー
カウンターの反対側、奥へ行くと雑誌コーナー。雑誌の展示架が数台、その横に低めのソファがコーナー状に設置されている。CDを視聴できる一人掛けのソファも2台。コーナーの中央には机があり、「いきいきライフコーナー」という資料展示がある。新聞や雑誌を読みに来る年配者向けに、そういう層向けの実用書等を集めてあるらしい。周辺に生け花が飾られているのも目を引く。これは後でまた触れる。
雑誌書架はビニールカバーを掛けた最新号が面陳され、いくつかの雑誌のカバーに事業所名や人名のテプラが張られている。いわゆる雑誌スポンサー制度*6を導入している*7のだ。この制度自体はあまり珍しくなくなってきたが、面白い発見が2点。
1つめは、まだスポンサーのついていない雑誌のカバーに「この雑誌は2018年3月末で購読停止予定です。雑誌スポンサー募集中」といった表示を出し、積極的に呼びかけていることだ。すでに購読停止になったタイトルについても、本来なら最新号が面陳されている位置に、同様のスポンサー募集の呼びかけが掲示されている。実際に歯抜けになった雑誌架を見ると訴えかけるものがある。
2つめは、「図書館利用者様」とだけ表示された雑誌がかなり多いこと。さきの図書館ホームページにあったリストで数えてみたら、25タイトル中14タイトルまでがこれだった*8。通常雑誌スポンサー制度というのは、資料の購入代金を負担してもらう代わりに、広告表示等、スポンサーの知名度を上げるのに貢献する仕組み。「図書館利用者様」ではスポンサーにとってメリットがない訳だが、スポンサーというより純粋に寄付制度として機能している様子が見てとれる。
- 児童コーナー
カウンターに向かって右側は児童コーナー。書架は高さ140センチくらいの3段(文庫本は5段)。絵本の棚は高さ60センチくらいで2段。書架の上に「カーリルタッチ」のPOPが出ていた。カーリルタッチの説明は以下。阪南市立図書館のタグ*9というのもあるようだ。
カーリルタッチは、図書館の本棚から、様々なインターネットの情報に簡単につながる仕組みをつくるプロジェクトです。
自分のスマートフォンを棚のマークにタッチするだけで、テーマにあわせた様々な情報にナビゲート。本棚を眺めたあと、貸出中の本もすべてチェック。読みたい本を予約できます*10。
その側に「としょかんにいこう! その1」というタイトルの本が展示してある。表紙はいかにも子どもの描いた絵とタイトル、製本はホチキスという簡易なもの。添えられた解題によれば、図書館利用者「ゆーちゃん」(おそらくお子さん)の作品だそう。これも貸出可能だそうで、OPACを見たら登録されていた*11。その1ということはシリーズ化の予定があるのか。頑張れゆーちゃん。
壁際の一角に面して「おはなしのへや」がある。絵本の棚とガラスの壁で区切られ、靴を脱いで上がるようになっている。絵本の棚は高さ60センチくらいの2段。所狭しと面陳しているが、きれいに整頓されているのであまりうるさくない。童謡の歌詞を書いた大きなパネルが壁に張られている。
読み物の書架も工夫されている。基本的にはきっちり詰まっているのだが、ところどころあえて1段抜けを作って、面陳してある。また書架の上にはポップアップカードが飾られている。「つながり」にあったものと同じだろう。手作りといえば「ページをめくるときつばをつけないで」という注意書きの円柱が書架の上に立ててあった。材料はラップの芯のよう。
- 図書館フレンズ
壁に「図書館フレンズ」の活動を紹介した手作りポスターが張られている。「図書館フレンズ」というのは阪南市立図書館のボランティア*12。児童コーナーにあったパネルやポップアップカード等も、ボランティアの仕事かもしれない。
また、この図書館全体の特徴として、至るところに植物が飾られている。雑誌コーナーには、桜に似た花を枝ごと活けた花瓶や、鉢植えの観葉植物。一般書コーナーの書架の上にも、多面体のかたちをしたガラスの鉢から寝ているポトス。窓際にはもう少し背の高いドラセナの鉢。これらの飾りつけや手入れも、ボランティアの活動内容として挙げられている。
- 一般書コーナーその他
カウンターを正面に見て左側に、一般書が置かれている。壁際に小説の棚、8段で3メートルくらい。その他の本は床置きの書架で、高さ150センチ程度4段のものと、高さ180センチ程度6段のものがある。
うろうろしているうち、いくつか張り紙を発見。一つは、タブレットの貸出*13をやっているというもの。もう一つは「長期延滞すると貸出停止になります」というお知らせ。電話やハガキが来ても返さない長期延滞者には、返してからも3ヶ月間貸出不可期間が設けられる上、予約やリクエストも取り消しになるらしい*14。延滞本を返さないうちは新たに貸さないとする図書館は多いが、返してもしばらく貸さないというのは、はっきりペナルティとしての位置づけ。苦労されているのだろうか。
別の場所にはヤングアダルトコーナー。壁際の作り付けの棚と、ブックトラック2台分。ライトノベルが中心。ほとんど文庫なので小さく、3メートルくらいのところに11段入っている。読み疲れやすい本にしてはきれいな状態が揃っている。まめに入れ替えをしているのだろうか。また棚が抜かれてガサガサになっていなくて、整然としているのも印象に残った。
- 全体の感想
手入れの行き届いた、愛されている図書館という印象。特に印象的だったのは、繰り返しになるが館内あちこちに置かれた植物。緑があると見栄えが良いのはもちろんだが、置いてあること自体より、これらがきちんときれいな状態にメンテナンスされていることが凄い。
生け花は水替えが必要。鉢植えには水やりしなくてはいけないし、埃も積もる。それはポップアップカードでも同じことで、紙細工はすぐ傷むからまめに取り換えないといけない。そもそも鉢植えであれ飾りであれ、書架の上に何か置くということは、そこの埃を払う時にひと手間かかるということでもある。モノだけ真似しても、手入れが悪ければかえってみすぼらしくなるだろう。
そういえば、花を活けるのは図書館の防犯上良いと聞いたことがある。スピリチュアルな話に聞こえるがそうではない。その場所に人目をひきつけ、手を入れるようになるので、悪いことをしにくくなるという実際的な効果だ。
おそらく図書館職員だけでなく、ボランティアの手がかなり加わっているのだろう。というより、こういう部分に手をかけるのは、むしろボランティアの方がいいのかもしれない。単に無償の労働力としてでなく、自ら手入れすることによって愛が深まる。雑誌スポンサーで匿名の利用者の寄付が寄せられていることとも、いくらか関係があるように思う。